神庭幸宏。お前に俺から二つ名を送ろう。『茨の道』を進むお前に、敬意と激励を込めて――。
刈谷との階段レースに敗れた幸宏は、もはや目を背けることなどできなくなった内にある衝動に突き動かされるまま、再戦を望む。しかし、刈谷との再戦に全てをかけるかのような幸宏の態度は、彼に協力しようとする階段部の面々や、彼を案じる友人たちから孤立する結果となり……。そして、階段部の部員たちの与り知らぬ場所で進行する包囲網。決戦の日は近づいていく。
[tegaki]階段部が、大好きだ!![/tegaki]
階段レースという他者から見ればまるで無意味に思える奇抜な競技を、真剣に取り組むという異色で熱血で青春な物語もついに完結。通してみると、部長の九重ゆうこに強引に勧誘され、入部させられた、主人公・神庭幸宏の成長の物語でありましたね。
物語が進むにつれて、幸宏の中でふくれあがっていった衝動。それは、かつて先輩である刈谷が通った道で、他者には理解されることのない孤独な道を歩ませる原動力。『先』を求め、至ろうとする彼らが伸ばす手をかわし、あるいは決して手が届かないかもしれない「それ」の答えを知ろうとするかのような決着のための階段レースが最後に待っていましたね。今までのようなスポーツとして、熱さを描くような描写ではなく、これまで幸宏や刈谷が階段レースを通じて得ようとしてきた形のないもの、そして自分と向き合うかのようなものでしたね。
結局、刈谷が求道者のように孤独を隠し、けれど諦めることなく探し続けた「先」や、幸宏が孤立し、苦しみながら、けれど諦めることなく求め続けることを決めた「先」についての明確な答えは明かされませんでした。よく分からない正体ですが、年を重ね、様々なことを経験し、得ることができ、あるいは見えなくなるそれは、きっと、彼らの年代の誰もが心の中で描き、願い、求めるような、漠然とした夢のような、そして青春という二度とない貴重な時間を輝かせる宝のような何かなのかもしれません。大人になることで、見えなくなるそれはきっと、もう手が届かなくなったとしても、階段を上るように歩みを止めなければまた違う何かが上に見えているのかも。
幸宏の苦しみとかに共感できないと、彼の行動が何ともちぐはぐで、周囲に迷惑をかけまくる存在に見えてしまいますが、それでも幸宏を支え励まそうとする友人や、部員たち、そして彼に想いを寄せる女の子たちの姿を見ると、彼がどれだけのものを、この1年で積み上げてきたか分かろうというものです。ひとつの締めくくりとなる卒業式での幸宏の送辞と、刈谷の答辞。熱いレースもそうですが、こんなまっすぐな心の描かれ方もまた、本作の魅力であったと思います。
受け継ぎ、そしてまた先達と同じように後から来るひとたちへ受け継がせていく。それが伝統となるような懐の深い校風の学校と、その象徴のような階段部という部活。エピローグで既視感を覚えるような展開を見、そしてそれから始まる、新たな階段レースを舞台とした青春の物語の予感を抱き、きっとまた、誰かが熱い物語を紡いでいくのだと、そう確信しました。
「階段部が大好き」その一言に全てが詰まっている、素敵な青春のお話でした。
hReview by ゆーいち , 2009/08/09
- 学校の階段 10 (ファミ通文庫)
- 櫂末 高彰
- エンターブレイン 2009-07-30
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コメント
コメント一覧 (1件)
学校の階段10巻の感想レビュー(ライトノベル・完結)…
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