守るだの守られてるだの、たったそれだけの関係なんて、ちょっと寂しいじゃない? 私たちはお互い様よ。できれば対等の関係でいたいの。
柚島の誕生日が近い。美智乃にそそのかされプレゼントを用意することになる軋人。一方の柚島も、いつも守ってもらっているお礼を何かしたいと美智乃に相談を持ちかける。これ幸いと暗躍した美智乃のセッティングにより、ふたりは郊外のショッピングモールでデートらしきものをすることに……。
[tegaki]ついにきた! 柚島さんのターン!![/tegaki]
ふたりの関係が決定的な進展を迎えないまま、そのくせ幼なじみもかくやという熟年夫婦の域へと突入しつつある状況にやきもきしていたのは読者である私だけではなかった! 軋人の妹であり、柚島さんの友人でもある美智乃からすれば、くっつかないのが不思議なくらい、いつも一緒にいるのが当たり前になりつつあるふたり。その関係を進展させるキューピッド役として悪巧み――もとい気を利かせてあれこれ画策した結果がこれだよ!
いやぁ、これはにやける展開。ニヤニヤが止まらない。柚島さんとのデートまがいのお出かけからまさかのお泊まり。ひとつ屋根の下、しかも同じ部屋の中で一夜を過ごすというドキドキの展開に、何か甘い思い出のひとつでも作っちゃえよ YOU! とか思いつつも、そうは問屋が卸さないのもまたお約束か。
そして、いつのまにか物語の主題は軋人たちの関係の進展から、美智乃と、彼女の姿にかつての想い人をだぶらせた、祖父の右腕である煉次の物語に少しずつ変わっていて、けれど今回は主人公である軋人の出番よりも、これまで彼が守ろうとしてきた対象である美智乃や柚島さんの決意やら覚悟やらが試されるお話でもありました。
自身の祖母であり、そして煉次が生涯を賭して護ることを決めたという織花。彼女を失ったことが煉次の内面にどんな変化をもたらしたのかというのは物語を追えば一目瞭然。自分の全てを賭けても守りたいという、彼らしい不器用で、まっすぐで、自分が報われなくともその幸せを傍で見ていられれば満たされるという、それは恋人に向ける感情よりも家族に向ける感情に似ていて。
秘めたる恋、叶わぬ恋、もはやそれを届ける相手はいないけれど、今回の騒動を通じて、織花から届けられた言葉は煉次に確かに届いて、そして、その言葉を継げたのが彼の独善で巻き込んだ形になった美智乃からであるというのもまた、彼の救いの一助となっているのではないのかなあ。
そんなひとびちの物語とは別に、この物語の世界観の部分でも気になることはありますね。この世界、通常ならざる異能の持ち手が少なからず存在する世界。これまでも度々語られてきた見えざる大きなうねりともいうべき世界の意志、あるいは神と呼ばれるかのようなものの存在が、この物語の最も奥深くで歯車を回しているかのような印象。守ろうとしても守ることができない、抗いようのない力の存在をほのめかす煉次と、それを何よりも実感している星弓家の家族たち。なんだか、それが物語に本格的に関わってきそうな気もしますが果たして。今回の事件もそうだけれど、時間を重ね、絆を強め、互いに不可分なまでに関わり合ってしまったときに、大きな試練が訪れるのだとしたら、今度こそ打ち勝つ展開を見せてほしい、そんな風に思いますね。
まぁ、そんなこのシリーズらしい家族の気持ちの温かさにも満足させられましたが、恋愛方面の味付けも今回は強めでさらに満足。柚島さんの軋人との対等の関係を望む決意とか、デレとか、美智乃のそう呼んでも良いのか分からないような淡い恋の予感だとか、見所満載したね。距離も縮まり、順調に次に出かける約束も取り付けて、少しだけ素直になったふたりの進展に拍手を。勘違いからのプレゼントを渡すときの軋人の台詞、それ、プレゼントだけじゃなくて自分自身にも当てはまりますよね。あえてそれを選択する彼の気持ちもそうだけれど、もしかしたら柚島さんも、そんな言葉の裏側を想像して喜んだりしてるんじゃないかなあと思うと、またしてもニヤけてしまうのです。いいから早く付き合っちゃえよ、な!
hReview by ゆーいち , 2009/08/14
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橋本 和也
コメント
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「周りが何もいわないでも、もう恋人というか夫婦みたいだなあ」 と思った8巻でした。 柚島のターンで、デレるシーンは楽しめましたが、個人的にはなんというか、結婚して落ち着いた夫婦が互いの愛を再確認するようにしか見えなかったす。(笑) しかし、あの距離感…