『わたしはあなたを信じている』。――そんなの、なんの意味もないよ。本当に信じてほしいのなら。わたしがあなたを信じていると知ってほしいのなら、行動で示さなくちゃ。口先だけなら、誰でもなんとでもいえるもん。わたし、頭が悪いから、他の人がなにを考えているかは全然わからないけど、そのことだけは、ようく知ってるんだよ。
白山さんの秘密を巡る騒動からしばらく経ったある日。白山さんと九衛という新部員も増えた図書館部にこれまで見たこともなかった部長・青嵐が相談を持ち込んでくる。「自分そっくりに化けた、偽物を見つけてほしい」。そして、その騒動の背後にはやっぱり、鞄の住人・阿頼耶識の姿が浮かび上がっていて……。
白山さん、かわいいよ、白山さん。
心を許した九衛と衡 ((衛と衡って字面似てるなあとか今さら思ってみる))に見せる人なつっこい無防備な側面と、それ以外のひとたちに対するビクビク警戒した小動物的な側面がはっきりしてる白山さん。付き合いが浅いと、割と面倒な性格に思われそうな彼女ですが、そこは変人と懐の深い奇人揃いの図書館部、何とかなってる感じがしますね。というか、副部長の朱遊さんに至っては、煩悩と妄想が入り交じって大変なことになってますが、いや、その気持ちは分からなくはない、分からなくはないが、割と犯罪なので……っ!
そんな白山さん、衡に心を許したといっても、彼女の思っている信頼と、衡が思っている信頼の意味合いに幾ばくかのズレがあったみたい。対人間の付き合いというものが、基本、疑うことから始められた白山さんにしてみれば、衡のことを信じたいけれど、それをどう伝えて良いか分からないというのが難儀なところ。逆に、衡は彼女のことなら無条件に信じてしまいそうな、ともすれば危ういとも感じられるような気持ちでいるわけで、お互いがお互いを信じていながら、少しでも深い部分に至ろうとすると、とたんに腫れ物に触れるようなぎこちなさに変わってしまうのが、距離感が計れてないのかなあという印象を持ちますね。
もちろん、それを乗り越えて、もっともっと深く繋がりたいんだろうなあと思う仕草も表情も感情もひしひしと伝わっているのが、また可愛らしくて。事件を解決するための手がかりとして、キスをしなければならない、なんてベタな理由で自分の気持ちを再確認してみたり。相手が自分以外の誰かとキスをしたら嫌だと思う、その理由なんてもうひとつしかないでしょうね。その気持ちに恋とか好きとかいう言葉を当てはめられない不器用さが、鈍感主人公と、訳ありヒロインらしいといえばらしいくて、微笑ましくもありますね。
ただ、白山さんの人間不信の根は深くて、なるほど、九衛が衡のことをなかなか受け入れようとしないのも分かろうというもの。そんな九衛さえも、少しずつ認めようとする衡の努力はいつか実を結ぶのか。痛む傷をいつまでも避けては通れない、白山さんの心の深い部分に触れるエピソードを経て、彼女の笑顔が周囲に振り向けられると良いなと思うのですね。
……まぁ、それはそれとして、衡の最後の選択はアウトでしょう。思いっきりそこは「確認」を選択するべきでしょう。むしろ、選択しすべてが「確認する」くらいでちょうど良い、そんなイベントでしょ、まったくもう……。
hReview by ゆーいち , 2009/08/16
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