戦いが全部終わったら、何になってると思うかって、前にせんせは聞いてきたわよね。あたし、せんせの家族になってると思うわ。……離れてるかも、どっちかがいなくなってるかもしれない。けど、それでも、そのとき、こころはつながってるって思うの。
仁はメイゼルや鬼火衆の男たちと、束の間の平和な日常を過ごしていた。しかし、仁の前に現れた王子護が帯同してきた少女は、あろうことか死んだはずの仁の妹・舞花であった。そんなとき、来日した《連合》最高議会議長アリーセは、開催される会議の警備を仁に依頼し、そしてメイゼルへはかつて円環世界で起こった彼女の罪の証ともいえる事件を語ることを求める。罪人として地獄へと落とされる原因ともなった事件、それは円環世界最強の魔導師でもあったメイゼルの母・イリーズと彼女自身の物語を。
[tegaki]うおおお……!?[/tegaki]
重い、重すぎるよっ。ついに明かされたメイゼルの罪の形。これまで散々もったいぶって語られてこなかった、メイゼルと彼女の母・イリーズが背負わされてしまった罪と罰のお話。そして、今や協会内部に巣くう九位と呼ばれる彼女との因縁のお話。いや、これだけのものを背負わされたら、メイゼルが刻印魔導師として戦うことにこだわる理由も多少なりとも理解できるよなあ。あれだけの戦いをその目で見、世界そのものを壊すような強大な魔導師を母に持ち、そして、結果としてもたらされた罰を一身に浴びながらも心を折らなかったメイゼル。怒号と熱狂と憎悪と怨嗟と罵詈の坩堝とも言うべきあの壇上で恍惚に身を震わせる幼い少女の姿をどう言い表せばいいのか。世界そのものを敵とした彼女に向けられたあらゆる感情を受け止め、愛をささやくような言葉で呪いをかける幼い魔女の姿にこそ、心が震えました。
けれど、それでも仁は、メイゼルが幸せになることこそが、彼女が救われる道であると信じて戦っているようで。これまでも辿ってきた平行線上に立ち続けるふたり。平穏な日々の中では、家族にどこまでも近づけるような関係を築き上げつつも、結局は戦いから逃れることなどできないふたり。望まなくても彼らの前に立つのは、円環世界の因縁に囚われ呪われた魔法使いたちで、そして生き残らなければどれだけ願おうとも救いなどそこにはないという文字通りの地獄での戦いはこれからも続いていくわけで。
変化していく魔法世界の魔法使いたちと、彼らが悪鬼と呼ぶ仁たち人間との関係。そこで生きるしかない仁やメイゼルは、どの位置に立ち、何ものとして彼らや世界そのものと向かい合っていくのでしょうか。
そして、いよいよきずなにも運命を別つ残酷な選択肢が突きつけられ、彼女もまたどうしようもない状況下でどうしようもない選択を下すことになりました。彼女が嫌い、遠ざけようとしていた、けれど離れることもできない仁と、ついには同じ立場にまで堕ちてしまったきずな。対等な立場で、涙を止めることも、優しい言葉で慰めることもできず、ただ厳しく冷徹に立ち上がり、生きろと告げる仁。大きな運命に囚われ、その歯車と化しつつある彼女は、魔法使いにとってこの上なく危険な存在となり、否応なしに狙われ、傷つき、その手を血で汚していきそうですね。
一方で、再び現れた舞花の存在も、これからどんな風に影響を及ぼすのか想像が付きませんね。汚れながらも生きていこうとする仁たちの戦いは、大きな変化を受けながら、これからも続いていくのですね。
hReview by ゆーいち , 2009/08/23
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