シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~

stars では力を引き受ける覚悟をなさい。強くなることを自分に許しなさい。人は良きにつけ悪しきにつけ、みずから許しただけのものしか手にすることはできないのです。

カイから言い渡された再戦の比は刻一刻と迫り、しかし、大介は回復すらままならない自身に悩みを深くする。ついに、桂翁に助言を請うた大介は師から言い放たれた言葉に絶句する。「今から貴方を殺します」。強くなるということ、戦うということ、そして過去を受け止め乗り越えたいと願うということ、大介が大介であることの本当の意味が試される。

人形の鎮魂歌ついに(ようやく?)完結!

大介の中に眠っていた亡霊との対峙と、彼が越えようともがいていた亡父を知る強敵・カイとの戦いを通じて、大介が他の誰でもない自分自身の強さと、戦う意味を見つけていくお話でしたね。

これまで、徹底的に打ちのめされ、満足に身体を動かすこともできないという、行くも戻るもできないがんじがらめの状態の中、その弱さを吐き出し、けれど、その弱さを弱さと見ない師・桂翁との会話と対峙がなんとも胸を熱くさせられますね。誰よりも強くあり続けるために、誰とも深く関わることのできなかった桂翁の孤独。その結果得た強さをもって、大介に何かを伝えようとするという行為は、桂翁自身が自らに禁じてきた誰かを懐に入れるという行為に繋がっていて。たとえ、現時点で圧倒的な実力差がふたりの間に横たわっていたとしても、相手に命を賭けさせるということは、すなわち自分の同様に命を賭けているのだということに、それだけの価値を大介に認めたということに、どこまでも孤独な老人の、誰とも交わり得なかった他者との心のふれあいが感じられますね。

強くなることを恐れないということ、強くなるということを望むということ、それがどんな意味を持つのかを、師との対峙で得た大介は、ようやく彼自身の戦う理由を見つけられたんでしょうね。力で誰かを傷つけることを恐れ、誰も自分の強さを見ていないことに恐れ、自分を通して皆が見ている偉大な亡父の影に恐れていた大介が、ようやく一人前として認められるその第一歩の踏みしめだったのだと思いますね。

それからのカイとのバトルは、もはや格闘なんていう次元を超越したトンデモバトルの領域に至っていますが、命を取り合う戦いをしつつもどこか楽しげなお互いを見ていると、このバトルマニアどもめと苦笑するしかなくなりますが、戦う理由は違えど、その戦いを通じてお互いを認めていくという無駄に熱い展開は、いっそ清々しいくらいですね。長く引っ張ってきたわりの、決着の形が不完全燃焼気味かなあと思いつつも、この一線の目的は、相手の命を奪うものではなく、もっと別のふたりにしか分からないももだったということで。戦いを通して、カイの過去を知り、彼を通して父の姿を知り、大介が得たものはとても大きなものだったんだろうなあ。

そんな主人公の復活劇の裏で同時に進行していたドリーマーを巡る策謀。オズを狙ったその動きを見て、ようやくオズの不可思議な行動に合点がいったりと、やたらと遠大な伏線だったかなあ。翻ってみると、この人形の鎮魂歌編は、その副題通りの沙織がお話の中心に来るべきな感じがするのに、大介の物語と同時進行していたような構成でしたね。格闘プログラム保持者である大介の物語と、〈青い遺伝子改変者〉である沙織、そしてドリーマーであるオズというそれぞれが異なる異能を持ちながらも、それぞれの物語が複雑に絡み合って、お互いに関わっているという流れ。もはや不可分なほどにお互いに入り込んでいる彼らの物語は、これから再びオズを中心とした物語へと収束していくのかな?

hReview by ゆーいち , 2009/09/27

シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~

シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~ (GA文庫)
七尾あきら
ソフトバンククリエイティブ 2009-09-15
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