俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉

2010年2月12日

stars ……“呪い”よ。あなたが途中でへたれたら、死ぬ呪い。私の願いを果たすまで“解呪”することは叶わない……。可哀相に、このままではあなた、全身から血を噴き出して、のたつち回りながら死んでいくわ。分かったら、早く私の前から消えなさい。今度は自分の妹に、お節介を焼いてくることね。

「じゃあね、兄貴」―別れの言葉を告げ、俺のもとから旅立った桐乃。…別に寂しくなんかないけどな。そして新学期。平穏な高校生活を謳歌する俺のもとに、奇妙な後輩が現れる。「おはようございます、先輩」俺は、黒猫の人間としての仮初めの名を知り、より深い“絆”を築いていくことになる。“妹”と“親友”。ともに大きなものを失った二人は、数多の思想が渦巻く校内で、“魔眼遣い”の少女と対峙する。“稀少能力”を持つ少女に、俺と黒猫は圧倒され、異空間へと誘われ…!!“日常”と“非日常”が交差するとき、物語は始まる―。

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="#444444″ size="36″]まさかの黒猫ルート突入!?[/tegaki]

衝撃的な4巻のラストから続いて始まる第5巻。桐乃のいない生活は、京介にとってもそれはそれはさみしいものになるはずが、新入生として入学してきた黒猫やら、成り行きで入ることになった部活で知り合う面々たちの濃さに当てられ、一般人を自称する京介のオタクの暗黒面が首をもたげ……。

京介、桐乃に自分の趣味を告白された人生相談を受けてから、ずいぶんと懐が深くなったものです。だがしかし、何かにつけてその脳内の選択肢が浮かんだり、エロゲーのシナリオを元にリアル人物の攻略を妄想したりするのはすでに重症患者! 措置入院が必要です!! やばい、やばいよ、もはや右を見ても左を見てもまともな人格者はおばあちゃん的な幼なじみしかいないじゃないか……ッ!

まぁ、ともあれ、読者アンケートの願いが通じたのか否かはともかく、『俺の妹』と題するくせにほぼ黒猫ルートな本巻。やばい、今回の黒猫の描かれ方は、かわいさが過去巻に比べて120%じゃあ利かないくらいに大増量でお送りされていますね。先輩後輩の間柄になって接点が増えたことに浮き足立ったのか妙に距離感を縮めるような行動が目に付きますね。京介との他意のなさを装った感のあるスキンシップやら、「桐乃が京介のことを好きなのと同じくらいに好き」発言とか、ねじ曲がりまくっていた彼女がためらいに立ち止まっていた京介の背中を押すためにかけた「呪い」とか、もうさ、明らかな好意が示されてるのに気づけない主人公スキルにやきもきさせられますねえ。お前は今、黒猫に惚れていいんだ! 精一杯の背伸びで届けた思いが果たしてどんな芽を出すのか、それはまだまだ分からないけれど、自分の望みが叶わない限り解けない呪い、それって取りようによっちゃあ一方的な愛の告白じみていますよねえ。そうしてみると、もう黒猫の方から自分の気持ちを伝えようとするにはあの行為自体がハードルを上げすぎて、次はどんな手を打ったらいいものやらと、ひとりベッドでのたうち回って赤面しつつ悶々とする黒猫の姿を妄想するとにやにやが止まりません。最後の最後で見せ場は桐乃に取って行かれた感じはありますが、黒猫分の補充としてはこの上ないエピソードでしたね。

さて、新キャラとしては黒猫のクラスメートになり、さらに部活仲間になる瀬菜嬢が登場し、ある意味では今回の主役は彼女であるといっても過言ではないくらいのインパクトとトラウマ(笑)を植え付けてくれましたが、まさに

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="red"]せな☆れっどぞーん![/tegaki]

と誰も手を出せないくらいの暴走ぶり。恐るべき逸材が野に潜んでいたものですな。一見良識派のくせに、自分の趣味のこととなると止めどなくその妄想をまき散らす台風のごとき彼女ですが、それもまたひとにはいえない秘密を持ったオタクの生態の一端? 生々しい彼女ですが、今回の望んだのか望まなかったのか分からないような出会いを経て、これからどんな関わり方をしてくるのやら。次巻あたり、兄である赤城から京介が理由も分からず責め立てられたりしたら笑いますが。

で、物語は既定路線なのか方向修正なのか、やはり桐乃へと向かっていくわけですね。これまで結果を出すことで自分を肯定し続けてきた桐乃ですが、今回の壁は一筋縄ではいかなかったよう。誰にも頼れない状況下、あと少しで完全に折れてしまいそうになった「桐乃」自身を助けてくれたのは、彼女の中では頼りにしていなかったはずのバカ兄貴・京介で。その身も蓋もない懇願と告白を目の当たりにしつつ、毒を吐きつつ、それでも桐乃は自分では止められない自分の意地にとどめを刺してくれるひとを求めていたんだろうなあと想像に難くないですね。自分のコレクションを預け、誰とも連絡を取り合わないという厳しい枷を課しつつも、一言二言でも自分の言葉を届けたかったのが誰なのかという、その一点においてもそんな風に思います。

そんな感じで思ったより早かった桐乃の帰還。最後の最後で黒猫との親友らしいやりとりににやにやさせられつつも、またいつもの面々がそろったことで再スタートな物語。変わらないようで変わってきている面々の姿をこれからも楽しんで見守っていけそうです。

hReview by ゆーいち , 2010/01/17

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉 (電撃文庫)
かんざき ひろ
アスキーメディアワークス 2010-01-10