生徒会の火種―碧陽学園生徒会黙示録3

2010年4月8日

stars 杉崎……私達、貴方のこと、絶対忘れないから! ……副会長に、敬礼!

「反吐が出る。生徒会がキライだ。碧陽学園が大キライだ」私立碧陽学園生徒会―そこは、美少女メンバー四人が集う楽園だが、その楽園が形成されるまでの道のりは、苦難に満ちていた。かつて、碧陽学園に存在した闇…金、権力、暴力を手に、すべてを覆いつくさんとする深い闇。それを打破した人物とは―!?たまにはシリアスもいいじゃない、ファンタジア文庫だもの。と、思いきや。デレないツンデレ・凶暴アイドル・微妙超能力者・BL美少年と行く、奇想天外ぶらり湯けむらない京都の旅(つまり修学旅行)も収録。そして、なぜ真冬は表紙でスク水なのか。夢か幻か読者サービスか、その謎に迫る!…ってことはいつも通りか。

[tegaki font="mincho.ttf" size="24″]碧陽学園生徒会の闇を、君は見たか!?[/tegaki]

まぁ、そんな感じで短編集も第3弾。本編のせまっくるしい生徒会室から飛び出して、誰も彼もがフリーダムに生きているのを感じさせられる、よりはちゃめちゃ度を増した感じのするエピソードの数々ですね。

雑誌掲載のエピソードは時期的にアニメ化で盛り上がっていたタイミングのエピソードが入って入るせいか、発刊のタイミングからすると、やや遅いかなあという感じはしますが、それはそれ。後半に収録されている描き下ろしの短編が、その辺の物足りなさを十二分に補ってくれますね。マンネリマンネリとささやかれるこのシリーズですが、ここ最近に刊行された巻の中では、かなり楽しめたお話が多かったかも。

生徒会メンバーではなく、こちらの外伝での出番がメインの中目黒くんや、宇宙姉弟といったキャラの魅力もさることながら、本編ではどうしても杉崎の一人称での語りが縛りとなってしまうのか、こちらで見ることのできる巡視点のエピソードが新鮮に映るのですよね。恋する乙女の補正が多分に入って入るものの、巡から見た杉崎のかっこいいことかっこいいこと。締めるところでは締める主人公ではありますが、一途な巡から見たひいき目の彼は、誰よ、みたいな感じがしないこともないですね(笑) 肝心の、彼女の恋ごころは成就する可能性が現時点で皆無なのがなんとも切ないところではありますが、けれど杉崎自身も彼女のことをないがしろにしているというよりは、自分が釣り合わないと思い込んでいるからこそ、そういう関係になるということを全く考えていないような印象を受けますね。はてさて、いつもここぞというところで心のブレーキがかかってしまう巡ですが、そのためらいを乗り越えて、彼へと踏み込んでいくことができるのかどうか。今後のエピソードも気になりますね。

そして、今回の外伝で明かされる、碧陽学園生徒会の奇妙な生徒会役員任命制度誕生の秘密もまた必見かも。今の生徒会を生むために、たったひとり、心の中にくすぶらせた火種を守り抜き、広げ、学園を覆っていた闇をその熱と光で打ち払うに至った「ぼく」の物語。そのつかみ所のないキャラクターにひたすら突っ込みを入れざるを得なくなる現生徒会の杉崎と知弦さんの姿に笑わせられながら、珍しくきれいなオチに満足。たまにこういうきれいなお話を入れてくるのですが、過去の、今の礎となったお話というのは、なんでこうも良いものなのか。これが本編に影響を及ぼすなんてことは欠片もなさそうだけれど、もしかしたら再登場フラグが? みたいな期待も抱いてしまいますね。そういう世界を広げるエピソードも見せてほしいです。

と、生徒会メンバーよりも杉崎クラスの2-Bのメンツとの掛け合いが楽しい番外編でしたが、相も変わらず貧乏くじを引かされまくる真冬ちゃんと守の姿に涙(主に笑い涙)を禁じ得ない巻でした。そして、表紙の買いにくさはかつてないレベルですが、まさかそれがあんな重大な伏線になっていたとは……っ! 真相は読んでのお楽しみ!

hReview by ゆーいち , 2010/04/04