おれと天使の世界創生

2010年4月8日

stars あの世界は終わったけれど、終わってしまったけれど、まだ残っている。何かが確かに残っていて、そして――おれの物語も、そこにある。

「必殺技は合体しないと出ないのよ!」天界の秘宝『世界の卵』と一体化してしまった火魅亨。そのせいで、天使白瀬優輝の魔力供給源にされ、おしかけ同居まで。亨が死ぬかHをすれば『世界の卵』を取り出せるとあって、次々と現れる魔族に命と貞操を狙われるハメに。こうして始まる、同居、合体、バトル。人と天使と魔族がドツキ合うお茶の間漫才、ついに開幕。

[tegaki font="dfgot_p.ttc" size="24″ color="MidnightBlue" strokecolor1="CadetBlue" strokesize1="4″]世界を救う、おれの物語。[/tegaki]

久方ぶりに刊行された冬樹忍の新シリーズ。『たま◇なま』と同様にイラスト担当が魚氏であり、そして物語自体もなんだか前シリーズとの関連性をそこかしこで思わせるような描写があってこれからの展開が楽しみな感じですね。なんせ、主人公の名前の読みが、同じく「ひみ・とおる」なんだから、そこに意味を見いださなければ嘘ってものでしょう。

で、お話自体も冒頭の展開というか、主人公の境遇は『たま◇なま』めいていて、既視感ばりばり。愉快な部活の仲間と、突然やってきた人外の少女、その手にゆだねられる世界の命運と、お約束満載ながらも、その味付けが独特で、文字通りひと味違うといった感じ。

世界の命運を手の内に納め、天使と悪魔からその身を狙われることになった主人公の火魅亨。天使の少女・セフィエルこと白瀬優輝に押しかけられ、続いて悪魔の少女にも押しかけられ、賑やかになっていく火魅邸と所属する部活、文化発表部。

続々人員が増え、寂しかった部活に生まれる賑やかさ、変わっていく生活に否応なしに巻き込まれることになる戦い。かつて夢に見た「世界を救う」なんてフィクションの物語が、彼自身の現実に置き換わったとき、亨が選択するのはなんとも「世界を救う主人公」らしい行動ではありますが、その選択に至るまでの葛藤やら内面に広がる世界やらは、そんな主人公像とはかけ離れたものだったように思えますね。これは前作の主人公でもある透もそうでしたが、裡に抱えている重みというのは、物語の主人公的な善性だけでなく、うすら暗い属性も帯びているんですよね。そういう共通点を見いだすと、ふたりの名前が同じであるということの意味、そして敵勢である悪魔たちが生うと仰ぐ存在との関連を妄想すると、やたらとスケールの大きな話に思えてきますね。

この物語が、亨の生きる世界で本当に生まれた物語なのか、それとも『世界の卵』が見せている架空の物語なのか、その真偽から考えないと全景が見えてこないような気がしますが、ともあれ、あらすじにあるような単純なお茶の間漫才では終わらないお話ではないかと思えてきますね。

今作でも健在な、寸止めな責めで喘ぐヒロインズの姿ににやにやしつつ、次巻を待ちたいですね。といか、『たま◇なま』のリミッター解除な大人向けな短編すごい読みたいんですが、いろいろスゴそうで(笑)

hReview by ゆーいち , 2010/04/04

おれと天使の世界創生

おれと天使の世界創生(ユグドラシル) (HJ文庫)
冬樹 忍
ホビージャパン 2010-03-01