PSYCHE

2010年4月8日

stars それにしたって、きみはどこへ行こうとしてるんだい。逃げ道なんかないんだぜ? どこにもないんだ。地獄にも天国にもない。そんな甘いこたえがあるわけないだろう? 苦しいだろうなあ。

どうせ僕には、自分が見えているものしか見ることが出来ないんだ。「僕」には死んだはずの家族たちの姿が見える。一人、絵を描きながら過ごす「彼ら」との奇妙な日々がやがて、「僕」の本質を引きずり出す……。「しかしこの家は気持ち悪いな。きみの内臓のなかにいるみたいだ」

ずいぶんと長い間積んでおきましたがようやく読了。いや、これ、精神状態によっては大変なダメージを受けかねないないような気がしますね。とりあえず、気持ち悪いという感想が先に立つ程度にはしてやられた感じが。

終始蝶というモチーフを、作中にちりばめつつも、蝶という語、存在から受ける美しいイメージとは正反対の醜悪ともとれるような印象をぶつけてくるような文章。

そして、冒頭で事故による後遺症で、自分の見る世界が壊れていると認識している主人公が、次第に現実と虚構の境界を踏み越えて、どちらともいえないような世界に身を置くようになる過程がゆっくりと進行し、そしていつの間にやら取り返しのつかない状態に陥っているという何もかもが手遅れなお話ですね。

所々で感じる違和感も、それが「僕」の心が壊れているからなのかどうかも判然とせず、彼の周囲の世界が、そして彼自身が終わっていくからこその無秩序さなのか、答えを出すことができそうにないですね。

ああ、なんとも言葉にしがたいもやもやとした何かが心の底に堆積していくような読後感。それこそ、悪酔いしたのか、悪い夢から覚めたときのような、くらくらする目眩を覚えるようでした。

hReview by ゆーいち , 2010/04/05

PSYCHE

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)
唐辺 葉介
スクウェア・エニックス 2008-07-26