いいか、恐怖を感じないことが勇気じゃない。恐怖を感じて、それでも前に進むことを勇気と呼ぶんだ。
一冊の魔導書が秘めた無窮の闇。激動の時代を舞台に繰り広げる幕末ファンタジー!
時は幕末。攘夷派と開明派が相克する激動の時代。大坂適塾に学ぶ若き蘭学者にして魔法士の久世伊織は、塾長・緒方洪庵の命で、一冊の難解な魔導書を翻訳するため出雲国松江藩に赴いた。一刻も早く翻訳を済ませ大坂に帰りたい伊織だったが、招かれた屋敷で手渡されたのは、亡き父失脚の原因ともなった、古の“大崩壊”によって失われた技術・魔法金属ミスリル銀の錬成炉が記された書物だった……。
翻訳を開始した伊織の周囲の村で起こる神隠し、突然襲いかかる攘夷志士の凶刃、魔法士・金森鳶巣の暗殺。謎を追う伊織と赤眼の志士・冬馬の前に、やがてミスリル銀錬成に隠された無窮の闇が広がっていく!魔導の旋律が奏でる幕末ファンタジー!
よく見るとあらすじがかなりネタバレしていたような……(笑)
第16回電撃小説大賞・大賞受賞作というだけあって、お話としての完成度は高いですね。幕末+魔法という、食い合わせの悪そうなふたつの要素を、うまいこと融合させてできるだけ拒否反応でないように丁寧に読者をお話の中に引き込んでいく流れですね。とはいえ、やっぱり幕末舞台の時代劇めいた言葉遣いの中に、いきなり横文字的な呪文が出てくるのは、個人的には浮いて見えてしまいましたね。その辺についてのフォローもしっかりしているあたり、設定はかなり練り込んでいるなあと関心もしたわけですが。
そんな構成がどうのこうのいう前にお話としては割と王道的な感じなのかな。ボーイミーツガールの反対の展開で、この辺、今時の異能バトルが溢れたご時世からすると、懐かしさも感じたりするのですが、そこに主人公の伊織の秘密を絡めることで、一筋縄ではいかない、端から見るとちょっと奇妙な関係を、冬馬との間に築いていきますね。生真面目で潔癖、あるいは愚直にも見える伊織と、自由奔放で豪快な冬馬という正反対のふたりの掛け合い。お互いの第一印象が最悪に近い形ながらも、期せず共に過ごすことになった時間、協力し合うことになった関係を経て、互いの異なった価値観への共感を得てもいきますし、悪印象も転じて友情に似た好印象へと変わっていきます。
伊織が松江藩を訪れたきっかけとなった事件の真相も、種を明かしてみれば割とシンプルな感じ。というか、凄くわかりやすい形で、いかにも怪しいヤツがいるので、黒幕自体はすぐに見当が付く気もしますね。そして、そんな黒幕との最終決戦は、もはや魔法バトルというか、人外バトルの領域に至って、ぽかーんとさせられました。なんだ、このSAN値がだだ下がりになるような展開は。まさかここまで風呂敷を広げてくるとは。冬馬の身体に施された仕掛けもそうだけれど、彼の正体はなんだかとんでもないものなんじゃないかと思わせるような決着でしたね。残念ながらラスボスがラスボスの風格を感じられることなく、どこかで見たような能力で延々と戦ったりしてちょっとテンション落ちましたが。その後のクトゥルーな展開で驚愕させられたので相殺でしょうか。
そうして出会った伊織と冬馬。戦いを経てふたりの間に残ったのは友情かはたまた……? 他人から見るとこのふたり、男同士なわけで、けれどお互いはお互いを異性として認識してるとか、新しいかも。ここから恋愛方面に発展するのはいろいろな意味で危険な感じがしますが、悪友的な関係から始まったふたりの道中、張られた伏線もまだまだあるし、これからも見ていくことができそうですね。
hReview by ゆーいち , 2010/04/05
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- アスキーメディアワークス 2010-02-10
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