空ろの箱と零のマリア〈2〉

stars マリアはまだ信じられないかもしれないけれど、きれい事だって腹が立つかもしれないけれど、僕は信じているんだ、日常に、解決できない絶望なんてないってこと。

繰り返しの日々の果てに、再び星野一輝の前に現れた音無麻理亜。しかし、ふたりで過ごす穏やかな時間は長くは続かない。一輝の周辺で不思議な事が起き始めたのだ。送った記憶のない告白メール、断絶する記憶、「自分ではない自分」が引き起こす事件、死体。そして、携帯電話に残された宣戦布告―
『ボクはアンタを壊す。アンタが大切にしているものを全部壊す。“箱”を手にしたボクは、アンタから全てを奪える』
“所有者”が一輝に向ける“悪意の理由”と“願い”とは…?緊迫の第二巻。

[tegaki font="mincho.ttf"]奪われていく【僕】の日常[/tegaki]

所有者の願望を叶える“箱”。麻理亜と共に“拒絶する教室”から脱出し、取り戻したはずの日常を、再び正体不明の“箱”の所有者の悪意が襲う。なんだか解らないが、とにかくスタンド攻撃を受けている!?

身に覚えのない告白メールのことを麻理亜と心音のふたりから問い詰められる一輝。そして、それを機に、身に覚えのない行為によってクラスから、日常から孤立していく一輝。所有者の悪意によって、切り取られていく自分と日常との接点。ゆっくりと、確実に奪われていく日常は、すなわち一輝にとっては逃げ場さえも失うということで、問題を解決しても、帰ってくる場所が失われてしまっては元も子もないという、単純にどこかにいる誰かをどうにかすれば良いという簡単な解決策が取れないというのが、今回の所有者の粘ついた悪意を象徴しているかのようですね。

お話の展開も、二転三転して息もつかせぬ読み合いの連続。誰が“箱”の所有者なのか、それを探っていく過程での麻理亜と一輝のやりとりについても、根底部分ではお互いを信頼しているはずなのに、今回ばかりはそれを表に出すことはできないという厳しい状況。麻理亜の一輝への信頼は、一輝の麻理亜へのそれに比べて揺るぎないものであるということを再確認させられるような描写がそこかしこにありましたが、その域に至るまでのふたりの、前作で過ごした時間の長さを思えば、それは当然のことなのかもしれませんね。一輝の方も、彼女を信じている、あるいは好感以上の好意を抱いているのは確実な気がするけれど、その本心の部分をうまく迷彩しているなあという感じを受けますね。当の麻理亜さえも欺いてみせる演技をしてみたり、中盤から終盤にかけて、非情なまでの策で敵を追い詰めていく冷徹さは、なるほど、“O”が興味深い観察対象として気にするだけのことはある異端だなと思いますね。

長い長い1週間の戦い。今回も“箱”によってその願望がそのまま願ったとおりに実現することはなかったし、その結末は悲劇的なものでありました。けれど、逆に、当事者たちにとっては、“箱”などなくても失われない絆があることを気付かせる麻理亜の言葉は、“箱”である彼女が言うからこそ届くものがあったのでしょうか。いずれにしても、一番報われないのは麻理亜のような気がしますが、それでも自分をさしおいて、たとえ敵対していた相手であろうと救って見せようとする彼女の精神の気高さは美しくもあり、そして儚げにも思えますね。

一輝の方もかろうじて日常を奪われずに済んだといったところですが、彼の日常も大概にラブでコメで非日常な気がするんだけれどなあ……。ほんと、リアルに色恋沙汰で大火傷しかねませんよ? ま、それ以前に、欠けた日常の最後の1ピースである友人の醍哉の最後の一言で、思いっきりひっくり返された感じもしますが。いったいあの言葉の真意は何なのだろうか、というところで以下次巻。この引きは上手いなあ、もう!

hReview by ゆーいち , 2010/04/10

空ろの箱と零のマリア〈2〉

空ろの箱と零のマリア〈2〉 (電撃文庫)
御影 瑛路
アスキーメディアワークス 2009-09-10