ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! disc4

2013年4月18日

stars 何度も同じ過ちは犯さない。もう二度と手放さない。離れたのなら、また近づけばいい。たとえそれが、傲慢と言われようと、押し付けがましいと言われようと……。この現実で彼女たちを幸せにできるのはあいつだけじゃない。彼女たちを幸せにするのが、正樹の役目だとしても、俺はそれだけで諦めたりしない。

この世界の主人公は――俺だ!
愛するヒロインたちとの生活を守るため、多忙な毎日を送っていた俺こと都筑武紀は、突如訪れた新たな危機に戦慄していた。幼馴染に起こされ迎える朝、姉妹と揃っての登校、校内一の美少女との学園生活。いつもと変わらない、愛すべき世界。でも、これは違う、こんなのは……俺じゃない! 自らの手で崩れゆく理想世界に、なんとか打開策を見つけようとする俺だったが――おい、これで〈世界改変〉の途中ってことはないよな?選択肢無限の真世界を奔走する、青春ADVノベル、待望の第4弾!

[tegaki font="mincho.ttf"]主人公 VS 主人公! 真の主役はどっちだ!?[/tegaki]

『エターナルイノセンス』の世界からついに主人公まで登場! これまで自分が主人公であるとばかり思っていた武紀にとっては予想だにしなかった、そして悪夢のような現実が展開する。いやぁ、これはきついでしょうね。自分が、ゲームから現実へと投影されてきた少女たちの想いを一身に受けるという主人公ポジションを(様々な困難があったとはいえ)謳歌していたのに、一夜明けたら、前触れもなく、あっという間に、そのポジションを奪われてしまっていたという……。

少女たちが記憶を失くしたりして距離が開くことはあったけれど、自分自身の存在が、彼女たちにとって全く不要な脇役へと配役変更されるなんてことは、想定していなかったでしょうね。この現実世界を改変するフェアリーテールシステムに関わる、未だ武紀たちの与り知らぬ領域に存在する連中の思惑がいったいどう絡んできているのか。彼らの周囲に起きていることが、稀少であり観察に値するという理由から、いろいろちょっかいをかけてきているような感じですが、その行為自体が、何を意味するのか、まだ謎なんですよねー。作中の登場人物を観察する神の視点を気取っているような雰囲気ですが、やっぱりこの物語は、そういうメタ的な構造を成しているのかな。その辺についてもかなり核心に迫りつつあるように思えますので、種明かしが楽しみでもありますね。

さて、毎度毎度、自分の行動の迂闊さ、愚かさ、浅はかさで後悔しきりの武紀ですが、今回は自分のエゴを前面に出して、世界改変と対決していましたね。本来のゲームの主人公の登場によって、自分が成そうとしていた役割――少女たちを幸せにする――を奪われてしまった武紀ですが、誰かひとりしか幸せにできない、そうすることしか選択できないもうひとりの主人公・正樹に対して徹底的に対立します。その点については、武紀が彼女たちを全員まとめて幸せにするという覚悟でもって、失われてしまった少女たちを再び現実へと投影したという過去がありますから、愛情と、そしてそれに劣らぬ義務感で、正樹に選ばれなかった少女たちが不幸になるのを捨て置けないという感情は理解はできるんですよね。ただ、それ以外にも、自分自身の幸福な空間を、あっさりと奪われてしまったという嫉妬・独占欲めいた感情があることもまた否定できないところで。その辺の折り合いも付けられずに目の前に現れた正論に対して、真正面からぶつかることしかできない愚直さも、また、主人公らしくはあるのですが、やっぱり武紀の行動というのは少女たちの幸福を願うのと同時に、自分の理想的な空間である「今」を失いたくないという切望も抱いているように感じますね。

そんな正反対な主人公同士の対決も、やはり土俵が違えば勝負の行方も変わってくるもの。武紀へと思いを託して退場していく正樹。現実の主人公という役割を、ゲームの主人公から託されるというのも変な話ですが、そこで誓った想いは決してやすやすと違えることができるような軽いものではないのは他ならぬ武紀自身の骨身に染みていることでしょう。これまでのような困難も、そして、何人もの少女を同時に愛するという現実世界の倫理に悖るような想いへの逆風も、まだまだ数多く未来には待ち構えていることでしょうね。そのときに、またあっさりと挫けてしまうのか、あるいは、今回のようにみっともなく足掻いても、それでも自分の決意を貫き通す芯の強さを見せるのか、「主人公」であることを選択した武紀にとって、真価が問われるのはこれからなのかもしれません。

と、ここで終われば武紀、成長したな……! で終わるんですが、エピローグが大変なことになってますね。咲の身に起きたこと、思い出してしまったこと、それがどう裏切りにつながるのかなんて、ギャルゲー的にはもう、NTRな展開しか浮かばないんですが、そこまでやるんだったら本当に容赦ないなとある意味関心です。果たして、その絶望の正体はいったい何なのか。次巻のエピソードもかなりきついものになりそうですね。

hReview by ゆーいち , 2010/04/14

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! disc4

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! disc4 (ファミ通文庫)
田尾 典丈
エンターブレイン 2010-01-30