善人? 悪人? ふざけるんじゃねぇ。そんな位置に立ってなきゃ、誰も助けちゃいけないのか!! 目の前で泣いてほしくない人が泣いているんだ! 助けてくれって一言を言う事もできずに、唇を噛んで耐えている人がいるんだ!! それだけで十分だろ!! 立ち上がったって良いだろ!! 特別なポジションも理由もいらねぇ!! それだけあれば、もう盾になるように立ち塞がったって構わねぇだろうがよ!!
10月18日。
ロシアより、第三次世界大戦の宣戦が布告された。
学園都市とロシアの激突は全世界を巻き込む大規模なものとなる。この背景には『神の右席』最後の一人、フィアンマの政治的暗躍があった。
そんな世界大戦戦火の渦中で、奔走する者達がいた。
学園都市の高校生・上条当麻は、フィアンマによる霊装奪取の影響で昏睡状態になったインデックスを解き放つため。
最強の超能力者・一方通行は、謎の存在『エイワス』出現による高負荷が掛かった打ち止めを救うため。
元・暗部組織『アイテム』小間使い・浜面仕上は、能力促進剤『体晶』の乱用によって衰弱した滝壼理后を治療するため。
彼らは三者三様の想いを抱き、緊迫のロシアへと向かう!そこで待ち受けていたものとは……。
科学と魔術が交差するとき、物語は始まる――!
ついに開戦した世界大戦。フィアンマの手のひらの上で踊らされる大国の小競り合いの裏で、着実に彼の目的は成就に向かっているようです。
なぜ、神の右席にして、その中でも最上位に位置するフィアンマが、インデックスの知識を必要としたのか、そしてその力を使って何を為そうというのか、戦いの中でさらりと語られますが、それだけ世界のバランスが崩れているということは、もはや何でもありという状況といっても間違いはなさそうな。その突出した能力も、その副産物なのかな。逆に、上条さんのようなイレギュラーきわまりない能力もまた、その歪みから生み出されていたりして……? 自分をさらなる高みへ至らせるためのエサとしか、フィアンマは上条さんを見ていないようだけれど、そうするだけの価値があるからこそ、もしかしたら上条さんは右方のフィアンマに拮抗しえるのではないかとも思えてくるのですね。
まぁ、初戦、というか、ロシアに来ての第1戦は、イギリスでの会敵時と同様に何もさせられなかった、完敗といっていいような結果でしたが、それでも上条さん以外の力があったからこそ、辛うじて生き延びることができたといった雰囲気。あまりに次元の違う力の差もそうだけれど、言葉でもフィアンマは上条さんを揺さぶってきますね。これまで隠し通してきた、インデックスへの負い目。それを抉って、自身の正当性を揺らがせる。物理的にだけでなく、精神的にも屈服させようかというフィアンマ、どこまでも容赦なし! そんな敵の言葉に芯を揺るがせられながらも、自分を見失わない上条さんの精神力も大したものでしょうね。インデックスを守るというその気持ちは、記憶を失くす前と失くした後のどちらも変わらない、一本線。それだけを見ても、彼が彼であることに疑いはないということで。
逆に、打ち止めを救うために、同じくロシアの大地を踏んだ一方通行を待ち受けていたのは、正攻法とはまるっきり反対の邪道も邪道、彼の弱点をこれ以上なく的確に突いた作戦にして刺客。これまでは、巻によって雰囲気がまるっきり変わるような構成でしたが、こと、ここにきて、同じ舞台で主人公たちが立ち回るような状況になると、なおさら、一方通行が身を置いていた学園都市の暗部というものの底知れなさ、容赦のなさが際立ちますね。能力的には勝てるはずの相手なのに、相性としては最悪の相手。自分の命以上に、守ろうとした存在が、これまで見せたことのなかった悪意の牙を剝いて襲いかかってくる悪夢としかいいようがない状況。これまでの強敵との戦いでも決して折れることのなかった、彼の中の最後の芯が叩き折られるまで追い詰められる一方通行。勝負の決着を見てもなお、それさえトリガーにして最後の罠を発動させるとか、どこまでも凶悪なやり口でしたね。
そうして壊れてしまった一方通行と、上条さんの再会。まさかこんなシチュエーションで成されるとは思ってもいませんでしたし、再会=再戦というのはいきなりすぎだろう、おいとか思いつつも、やはり燃える展開。ヒーローに憧れながらも決して自分がそうなれないと思っている一方通行と、ヒーローになろうと思っていないのに、周囲からそのように扱われつつある上条さん。一方通行にとっての正義の象徴、というか、ヒーローの姿こそが、力がなくても弱いものを救ってみせる上条さんの姿だとすれば、どれだけ強大な力を振るっても、少女ひとりも満足に助けることのできない自分はいったい何なのだろうかという絶望と絶叫。その痛みをそのままぶつけられてなお、折れない上条さんの精神性はその一点においてさえも、やっぱり異常といって良いのかもなあ。自分の全力でさえ、倒れるのことのない無能力者、壊れきった世界において、一方通行が最後に信じようとしたのが、自分ではなく他者だというのが印象に残りました。
もしかしなくても、上条さん以上に力のない一般人代表ともいえる浜面も孤軍奮闘。超能力も魔術もなく、臨機応変に立ち回りつつ、滝壺のために戦う浜面。トラブルに巻き込まれつつ、そこから核心につながっていくかのような流れも、彼がやはりこの物語の主人公のひとりであることの象徴なのかもしれませんね。自分の力が足りなくても、彼には、彼を助けようとする力が集まるような雰囲気があるし、浜面の窮地を救ったアックアとの出会いもまた、僥倖というより出会うべくして出会ったという感じを持ちますね。
皆が皆、同じ場所を目指し集しつつある展開。次巻以降のバトルはさらに盛り上がることが容易に想像できますね。
最後には、意外な人物、というか本編の流れから取り残されているんじゃないかと危惧された美琴も参戦。おまけで麦野とかもロシアを目指してるようですが、学園都市の強力な能力者たちがいよいよ魔術サイドとの本格闘争の場に姿を見せるかと思うと、そちらの活躍にも期待せずにはいられませんね。
全編通してとにかく熱かった1冊。21巻の登場が待ち遠しいですね。
hReview by ゆーいち , 2010/04/19
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