憧れてたんだ、いつかはその双剣使いの彼みたいになりたいって。いいかげん気づきなよ。今がその
「私が巫女なら―単に巫女を守れるだけの者を千年獅に選ばない」
淡々と告げるモニカの声に、シェルティスは言葉を失った。
……ユミィを守る決意だけでは、欠けているものがある?
穢歌の庭に堕ち、謎の存在である幽幻種の毒に侵され、異端となった少年・シェルティス。彼は、結界の巫女である幼なじみユミィの専属護衛・千年獅を目指し、かつて追放された天結宮に再入宮する。
しかし、そこで待っていたのは異端ゆえの孤立。思うように訓練に参加できず焦るシェルティスに、護士候補生の少女・モニカが近づいてくるのだが――!? 世界の理に拒絶された少年が、世界の理を体現する少女を守るすべを探す、重層世界ファンタジー。
[tegaki font=”mincho.ttf” color=”DeepSkyBlue”]憧れた、その背中だけを追い続けて[/tegaki]
ユミィの千年獅になり、彼女を守るという約束を再び果たすために、かつて身を置いた天結宮へと戻ってきたシェルティス。飛び抜けた、それこそ千年獅としても通用しそうな実力を持っているシェルティスは、けれども、以前とは変わってしまった護士育成のための訓練カリキュラムに苦戦することに。そりゃ確かに、トップシークレット扱いにして、存在・記録が抹消されたような少年が、出戻ったからといって、あっさりと目的達成とは行きませんわね。強くてニューゲーム状態ではありますが、必要なイベントはこなしていかないと、上位へとランクアップはできないと。
シェルティスのチート過ぎるスペックが健在なのが、この新しいシステムでは災いとなりそう。使命のために上を目指す候補生たちが多くても、その中にはやはり、ライバルを蹴落として今の地位を守ろうとするような輩もいたりするのは常なること。今回も、彼の実力がお披露目されてしまったあたりから孤立が表面化し、けれど、それのおかげで、もう一人、その力をくすぶらせていた少女・モニカと出会うわけですが。
いつか見た少年に憧れ、護士を志すモニカ。その憧れの対象となるシェルティスが目の前に現れたのに、気づくそぶりさえ見せないのは、やはり天結宮の情報統制の賜物なのやら。後ろ姿と戦闘スタイルがそっくりなら気づくだろうとか野暮なことを思ったりしますが、シェルティスが終盤で見せた、その意志、その姿を、彼女はいつかの少年とだぶらせることができたんでしょうか。巫女候補にして、護士候補という、それこそモノになれば反則的な実力を身につけそうな彼女だけに、シェルティスとの出会いと、今回課せられた任務と戦いを全うしたことで、次のステップへと成長したとすれば、将来が楽しみですね。
今回のエピソードも、これから動き出す本命の物語のための前哨戦な雰囲気。正体不明にして、意味不明な言葉『禁断水晶』と、シェルティスへと語りかけた少女の姿、相容れないはずの幽玄種が統政庁の施設内で研究されていたという知られざる事実。そういった要素が折り重なって、いつか大きな事件につながっていく気配がぷんぷんしますね。
逆にシェルティスの周囲は、あれっきりになるかと思っていた、エリエとユトが天結宮に居場所を作ってみたりと賑やかになる一方ですね。彼の目的であるユミィとの約束の成就のときはまだまだ遠そうですが、千年獅となることの意味をようやく知ったシェルティスが、本当の意味でユミィとの絆を結び直すことができる日は、きっと訪れるのでしょう。ふたりの間にある大きな壁があっても、見つめ合える、言葉を交わしあえる、そばにいることができる。触れあえない辛さも、離ればなれになる悲しみと苦痛に比べれば、きっとそれさえも未来への糧にできるのでしょう。
hReview by ゆーいち , 2010/04/25
- 氷結鏡界のエデン2 禁断水晶 (富士見ファンタジア文庫)
- 細音 啓
- 富士見書房 2009-12-19
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