わたし……、うまく言えないけど、わたし……。こんなことしたかったわけじゃないよ。武原さんと、わたし、どこへ行きたかったんだろう。
[tegaki font=”mincho.ttf” ]かくて絶望の地に神は降り[/tegaki]
スケールがでかすぎるお話です。前巻のイリーズの戦いもそうだったけれど、現在、地球という地で戦い続ける魔導師たちは、その世界そのものを背負って戦っているようなもので、その信念も力も、もはや人知の及ばないレベルに達しているとしか思えない壮絶さがまず最初に来るんですよね。
《再演体系》を、きずなを巡って錯綜する思惑。誰を利用し誰を切り捨て、誰を救って誰を殺すか、主人公の仁の苦悩はその選択を先延ばしにし続け、どうしようもない状況になってそれを後悔するという、自分を悪人というには甘すぎるその性格に起因しているとしか思えませんね。あるいは、それができないからこそ、仁が自分で思っているのとは別の形で、彼を悪人たらしめているのかもしれませんけれど。
《公館》、《協会》、《連合》、神聖騎士団、ワイズマン、そしてそれらどこにも居場所のなくなった仁やメイゼル、鬼火衆にきずな。それぞれの立ち位置と利害関係が異なっているだけに、もっとも力のない仁たちが、その居場所を確保するためにはあらゆる手段を取って、卑怯なこともして、そして何よりも手を血で染めないと生きていくことすらできないという救いのない状況が延々と続くのはきつい。ついに守られる立場から、戦う立場へと、望まないまま放り込まれてしまったきずなの絶望は、もはや誰にも救うことなんてできないのでしょうか。信頼していたおとなのはずの仁は、親の敵で、けれど他に頼れるひともなく、そして最悪の裏切りとも言ってもいいような、彼女に銃を取らせるという選択肢の提示。生きるために、少しでも良い未来を作るために戦ってきたはずなのに、もはや泥沼化して沈んでいくだけの足下で、にっちもさっちもいかずにあがき続けているようにしか見えないのが、絶望的なこの状況にさらに拍車をかけてますね。
舞花から突き刺すような言葉を浴びせられ、心を砕かれながら、それでも自分の中に目覚めてしまった魔法の力は、彼女の心とは関係なしに、戦うことを、生きることを、殺すことを選択していきます。幻影城での彼女の戦いは、もはやその戦いの意味なんて二の次で、ただただ死にたくないから殺すという原始的なもので、涙を流しながら、倒れることも許されず、自動的に敵を殺していくことしかできないきずなの壊れていく様の痛々しいことったらもう。未来から過去に干渉し、魔導師を操るという《再演体系》の凶悪さが遺憾なく発揮される戦闘シーンでした。壮絶さということならこれまででも最大級の救いのない戦いだったかと。
一方、アトランティスとして浮上した地で《九位》と対峙する仁たち。ここにきてヘタれの代表格のひとりだったケイツが予想外の活躍。いや、これ、彼がいなかったら仁たちに勝ち目なんて欠片もなかったと思わせられるような戦い。京香さんGJすぎです。メイゼルにとっても、負けられない戦い。その決着は思ったより早く訪れたという感じがしますが、むしろ《九位》が引き起こした状況の方が世界にとってはよほど脅威だったのかも。
そして、世界の崩壊一歩手前に至り、神なき世界についに降臨する神。新たな秩序をもたらすために降りた《神》が誰にとっての神なのか、その答えがこれから出るというのか。神音体系の神意とも外れてそうな気がするのですが、これはいったい誰にとっての救いとなるのか、あるいは誰をも救わないのか、これからクライマックスということで、ますます目が離せなくなりますね。
……しかし、これじゃあラスボスは舞花かきずなかって展開しか予想できないんだけれどどうなんだろうか。
hReview by ゆーいち , 2010/05/05
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