ゼロの使い魔〈18〉滅亡の精霊石

stars ねえサイト。お願いがあるの。他の子に目移りしてもいいわ。浮気したってかまわない。でも……。わたしより、先に死んじゃだめよ。それだけ約束して。わたし、きっと、あなたがいなくなるのだけは、耐えられそうにないから。

才人の元に戻ってきたルイズは、才人に素直な気持ちを告げる。「会えないときは、いっつもあなたのことばかり考えてるの」それは、たくさん考えた末に、それでも才人と一緒にいたいと願う言葉だった。二人は初めてはっきりと気持ちを通わせあい、幸せにひたる。同時に、ルイズはハルケギニアを救うため、ロマリアの野望を止めることを決意した。二人はアンリエッタたちと協力し、まずはタバサを救い出して、再び王座にすえようと動き始めるのだが……。とどまるところを知らない無敵のラブコメファンタジー、ラブ分多め、ドラマチック増量でお届けする待望の18巻。

ラブ分というかデレ分が大増量ですね。

別離と再会を経て、お互いの気持ちはもはや疑いのない領域まで昇華されていて、少し素直になるだけで、こんなに通じ合えるのかと、今までのケンカはなんだったのかと思うくらいに恋人してるルイズと才人。このまま一線を越えそうになったりするけれど、才人の方の自制心がむやみに発揮されたりして、また寸止め。いや、まぁ、そういうことを大切にしようとするのはいいんですけれどね。ふたりにとっては大切な繋がりだろうし。

そんな恋人たちの微笑ましいやりとりとは別に国家間の駆け引きという大局でも動きは止まらず。入れ替わられ、幽閉されてしまったタバサのあっさりとした救出とは別に、ロマリアと教皇がどうして聖地奪還をここまで危急の責務として成そうとしているのか、その理由と残された猶予の少なさに、愕然とさせられるのですね。言動の胡散臭さや、狂信に支えられたかのような決して譲ろうとしない信念、その基盤となる危機感は、一国の問題ではなく、ハルケギニアの存亡に関わるほどの、現実味のあるものだったとは。

それを回避するために、才人たちの側からは敵として映っていても、そこに暮らすひとびとのためになるかどうかという点から考えると、明確にそれを否定することは難しそうだなあ。あとは、その言葉がどこまで真実であるのか、裏がないのか、その一点に集約されてくるのではないでしょうか。目的のために汚い手も辞さないジュリオの行動も、今回その心中を吐露したことで、とても彼だけを糾弾することは難しそう。いや、それが演技でないという保証もないけれど、その言葉が真に迫る、あるいは信じたいと思わせられる背景がそこにあると疑ってかかれませんね。割と脳天気にヒーローの道を歩いてきた才人とは逆に、苦悩に塗れつつ世界を救うために生きてきたジュリオ。対照的なふたりの和解のシーンはぶっきらぼうながらも、その間のわだかまりの解消を感じさせられるものでした。

そんな風に描かれると、結局少年たちに悪い奴はいないんじゃないのかなあと思えてきてしまう不思議。それぞれの事情があって、対立したりしたけれど、最終的に望んでいる世界の在り方というのはそこまで大きく異なっていないんじゃないかという予感。あとは、それが人間だけの世界なのか、そこに生きるエルフや他の種族たちも含めて考えることができるか、超えることのできない溝がありそうだけれど、良い落としどころを見つけてくれるのを願うばかりです。

人間側の動きに呼応するかのようにエルフの側も動きを活発化。これまで以上に強大な力を持つエルフたちとの避け得ぬ戦いを前に、ルイズと才人に許されたささやかな平和な時間がとても暖かく思えました。

hReview by ゆーいち , 2010/05/05

ゼロの使い魔 18 滅亡の精霊石 (MF文庫J)

ゼロの使い魔 18 滅亡の精霊石 (MF文庫J)
ヤマグチノボル
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