氷結鏡界のエデン〈3〉黄金境界

stars シェルティス、これがわたしからの最後の支援メッセージです! 信じてます、その黄金を打ち砕いて!

「……あなたは、わたしと真逆だ」
絶望的な戦闘で、なおマハに挑むシェルティスを華宮カグラは見つめる。
「あなたは、あなたを信じる人を――信じられるのですね」
巫女ユミィを守護する正護士を目指し、モニカの部隊に入るシェルティス。そこで彼を待っていたのは、3人目の隊員候補生・華宮だった。
あなたには“過去”がない――異端ゆえ経歴を消去されたシェルティスは、華宮に不信を抱かれてしまう。そんな中、他部隊が何者かによって壊滅する事件が発生。真相を追うシェルティスと華宮の前に、圧倒的強さを誇る沁力術士『黄金のマハ』がたちはだかる。
世界の理に拒絶された少年が絆を奏でる、重層世界ファンタジー。

モニカとの初任務で大ケガを負ってしまったシェルティス。強さの突出している彼を、他のキャラと一緒に物語に絡めて行くにはこういうハンディも必要なんでしょうか。そうして登場したのは、エリエに経由で紹介された新キャラ・華宮。友情や信頼を何よりも重視する彼女は自分の正体を明かそうとしないシェルティスには心を開かず……。

信頼を積み重ねて行くには百の言葉を交わすよりもたったひとつの行動が勝る。華宮にとってはモニカとの出会いがそうであったように、シェルティスとの間に信頼を結ぶには、今回の戦いを経る必要があったんだなあという感想を持ちます。ケガのため実力を発揮しきれないシェルティス、見たこともない強大な術式を操る敵・『黄金のマハ』。そしてマハ打倒の切り札となった華宮の力。語ることのできない過去はあるけれど、シェルティスの本質を、その戦う姿から感じ取って信頼に変える華宮もまた、前巻のモニカと同じように、彼の強さに惹かれていくのかなあ。マハの術のタネが明かされてからの逆転は、それまでの苦戦が嘘のようなあっさりとしたもの。勝負自体は痛み分けに終わったけれど、どちらも最高の状態で戦ったわけでもないから、再びまみえるときは一層苛烈な戦いになるんでしょうね。

前巻で登場が予感されていた敵対勢力のお目見えで物語も大きく動き始めた感じ。マハと共に登場したイグニドは、シェルティス自身とも並々ならぬ因縁がありそう。一方的な片思いに似た熱烈なラブコールを送っているけど、シェルティスがかつて穢歌の庭に落ちた事件と関係がありそうな雰囲気ですね。そちらの組織についてはまだ輪郭もぼやけたまま、目的も何もはっきりとはしていないけれど、対幽玄種と共に、対人間という局面も増えてきそうな感じですね。

前シリーズ『黄昏色の詠使い』と世界観の繋がりを感じさせるワード『アマリリス』は今回も重要な意味を持っていそう。歌に秘められた想いと願いが奇跡を起こしていくのなら、シェルティスの身に宿った魔笛も、ユミィがシェルティスのために歌おうとしている第七天音律も、お互いを引き裂くだけでなく、救いをもたらすこともあるのではないかと、そんな可能性を信じずにはいられません。

ユミィとシェルティス、ふたりの運命の行く末と共に、ふたりの周囲のひとびとにも何やら明かされていない重そうな過去がありそう。風呂敷も広がり始めましたが、ここからお話も本番という感じ。時折見せられる日常の軽い雰囲気と、シリアスパートの重さが良い感じにバランスしている気持ちの良いエピソードでした。

hReview by ゆーいち , 2010/05/05