俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長

パクり疑惑の渦中にあった『俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長』、発行元であるアスキー・メディアワークスも謝罪を出し、回収・絶版と相成ったことで、その疑惑は事実として確定され、収束に向かうのでしょうか?

私はといえば発売日には購入せず、悪い意味で話題になってから書店で再度見かけて念のために購入、読了したというダメな感じでこの作品に触れたわけですが、確かにそこかしこに既視感めいたものを覚えた気がします。まぁ、すでにネット上では過熱気味の話題になっていたので、その熱に当てられ、それによる先入観ゼロで読めたかと問われれば返答に窮するところがあるのも確か。

自覚的に剽窃してましたって時点でフォローも何もできないし、これが悪しき前例になりかねないという不安もあり。読者側というより、それは出版側の問題ですが。出版にゴーかけるまえにどんなチェックをしてるかわからないけど、編集者の仕事のハードルさらに上がっていってるなあ。というか、そんなことに最大限に注意を払わなければ作品を世に出せないなんて風潮は望まれないだろうし、創作者のプライドとしてそんなことを考える人間が今後も出てくるとは思いたくないですね。

ラノベというジャンルの中ではこれまでの記憶にないくらいに大事になってしまった今回の事件ですが、第二第三の事例が発覚などという事態にならない良いのですが ((てか、すでに電撃ではイラストの方でも今年同様の事件がありましたっけ……))。他の業界では目にすることはあったのですが、対岸の火事ではないということで。

と、本作を取り巻く状況を知っていながらも、正直、割と面白いと思ってしまいました。けれど何よりこれでこのお話はお終いというのはキャラクターたちが不幸だなあ、ということで書きかけてた感想を最後に記しておいて、なるかならないかわからない供養にしてみようかと思います。あとは、まぁ、自戒も込めて。盗作、ダメ、絶対!

stars 何故? 愚問だな勇者。私は魔王である前に――生徒会長だからだ

聖桐学園名物といえば「勇者生徒会」「魔王生徒会」。人間と人外が共学のこの学園ならではのシステムだ。まぁ、名前の通り対立している訳で。
伏城野アリス ―俺の幼馴染み。完璧超人とはよく言ったもので、容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能な何でも来いなやつだ。おかげで俺はアリスの小判ザメと言われる訳だが…。そんな彼女が生徒会長の勇者になるのはいい。何で俺が魔王になっちまうんだ!?正体を隠さなくてはならない俺、魔王(俺)を目の敵にするアリス。めちゃくちゃハードな学園生活が待っていて!?
話題の第16回電撃小説大賞最終選考作がついに登場。

完璧超人と称される幼馴染みの少女と、凡人な主人公。人間と人外が共存する世界。対立する二つの生徒会、そこに期せず組み込まれてしまい、望まず、知らず、対立することになるふたり。タイトルに勇者と魔王とか付いていたからファンタジーものかと思っていたら、普通の学園ラブコメだったですね。いや、吸血鬼とか人狼とか人造人間とかが当たり前にいるんでファンタジーな気もしますが、今時の学園ものならこれくらい普通だよね!

人間なのに人外側の陣営の生徒会長・魔王に無理矢理ならされてしまった主人公・紅太郎。独特の学園のシステムによって人間側の生徒会の長である勇者と勝負させられることになったけれど、そのお相手は紅太郎が誰よりもよく知る人物であるアリス。ハナから勝負になりもしないこの対決の行方は、思わぬ方向に転がっていきます。

何よりも自分の責務に忠実であろうとするアリスと、強制的に役割を課せられてしまった紅太郎の異なる視点から見えてくる聖桐学園の中にある明るみに出てこないわだかまり。それは、大を生かすために小を切り捨てるを是とする善の視点よりも、それを否とする悪(?)の視点の方から浮かび上がってきたりして。主人公が後者の側に付いているから、そのメンバーを集めるための流れ的にもそうなるべきなんだろうかなと思いつつも、この世界では「人」と「人外」なんて区別でくくられてるくらいだから、人間の側の立場が強いのかなとか穿って見てしまいますね。主として優れている彼ら、人でないものたちが、なぜこの世界で人と共存しているのかとか世界観が気になるところではありますが、それを意識させるくらいの広がりを見せる前に、このお話、それこそ学園と主人公の部屋の中で閉じちゃってる感じが。

わかりづらい不器用な好意を一身に受けつつも、それに気づかないという鈍感スキルだけは超人級の主人公の周りに自然と集まる女の子たち。幼馴染み1に人外3とか、あれ、バランスおかしくね? とか思いつつも、誰も彼もテンプレ的ながらもキャラが立ってるなあ。人狼根暗少女は影が薄い気もしますが。あと、人造人間であの口調は、どうにも川上作品を思い出して仕方がない。メインどころのアリスと、もっぱら対抗馬となりそうな吸血鬼の鑑美は普通にかわいいですね。クーデレにツンデレと、これまたありがちな性格付けではありますが、会話が楽しくて良い感じ。

しかし、この主人公、自分を何もできないと自嘲しながらもここぞというところではアリスに匹敵するスペックを発揮するとか、実はそのポテンシャル、ただ者じゃないんじゃないかと思わせる部分が多いですよ? 目隠し将棋とか普通人にはできないし、終盤のバトルにしたって先読みできても身体が付いていかないだろ、とツッコミを入れてしまいたくなりますね。嫌々ながらやることになってしまった生徒会長役も、気がつけば真剣に、その身を張って勤め上げようとしてるし、覚悟からして常人と一線を画していますね。なんという主人公パワー……。

紅太郎的には大事になりかけたアリスとの確執を、生徒会戦のシステムの穴を付く形で解消に持って行くあたりはお見事。その手段の卑劣さと、オチはなんとも苦笑ものですが、それまで薄く積もっていたような、重苦しい雰囲気を吹き飛ばすような気持ちの良い終わり方ですね。

その先のエピローグに待っていた展開は、紅太郎にとっては文字通り骨折り損となりそうな感じではありますが、これから先の賑やかな学園生活を予感させるような始まりでもあって。自分の正体を隠しつつ、魔王としてアリスと対峙し、かつアリスを支えていくという困難な道。それはアリスが夢見る未来をともに目指そうという紅太郎にとっては、分不相応で、けれど避けては通れないかもしれない道。今はまだ明かすことのできない秘密を抱えつつ、波乱な一年を過ごすことになりそうな紅太郎の未来はいったい何色に染まるのやら。

hReview by ゆーいち , 2010/06/09

俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長

俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長 (電撃文庫)
哀川譲
アスキーメディアワークス 2010-05-10

……と書いてはいたんですけどねえ。