さぁ、本来の計画を開始しよう。他の使徒に負けないように、血の祝祭を開始しよう。
アナピヤを失いジヴーニャと別れたガユスは、傷心を抱えエリダナの夜を彷徨い、強敵ユラヴィカを失ったギギナは、剣の方向を見失う。そんな中、最悪の殺人者で〈ザッハドの使徒〉であるアンヘリオがエリダナに現れ、血の祝祭を開宴。使徒を迎え撃つために、ついに最凶の咒式士であるパンハイマとその一団が動き、聖女ペトレリカが心を痛める。使徒逮捕のために派遣された特別捜査官が隠す謎とは? それぞれの思惑から共闘と不和が渦巻くエリダナに、殺人の数を競う使徒の殺人遊戯が開幕する!
ついに本編が新たなストーリーに突入。前巻までの悲劇を引き継いで、どんな物語が始まるかと思ったら、今度は〈ザッハドの使徒〉たちによる狂気の宴がエリダナで始まるとは。その存在と凶悪さだけは作中で語られていたけれど、これまた飛び抜けておかしくて、悪夢のように強い敵が現れたものです。人外の者どもの脅威とは異なった、人間だからこそ行える、人間にしかなしえないその凶行は、やはり気分が悪くなるものですな……。
さて、ジヴーニャと別れ傷心のガユスは、その傷から逃げるためなのかどうなのか、別の女性へと逃げ場を見つけたよう。彼の繊細さに惹かれるチェレシアと、彼女の優しさに甘えたがるガユスは、かつての彼とジヴーニャのような仲睦まじい関係の一歩手前な初々しさを感じさせるやりとりを見せてくれますが、献身的にガユスを支えようとするチェレシアの言動を見ると、なんだか不吉な予感を抱いてしまうのは、この物語に触れている身としてはちっともおかしくないと思うのですよ。以前の物語に比べて、ガユス自身の内面はいくぶんか強くなっている気配はあるものの、立て続けに起きた悲劇は、彼の心をずたずたにしているはずだし、さらにここで追い打ちがかけられたりしたら、不幸どころの騒ぎじゃなくなってしまいますね。むしろ、そういう状況へ追い込むための、一時的な安らぎの罠ではないのかとか疑ってしまう、それが杞憂に終わることを祈るばかりですね。
そして、新たな一面が描かれたといえば、ガユスやギギナにとっての、怨敵・仇敵であるパンハイマ。彼女の異質さ強さも〈ザッハドの使徒〉アンヘリオに勝るとも劣らない別次元のもの。ジオルグの殺害の張本人であると二人に信じ込ませているような、彼らに恨まれることこそを喜びと感じているようなパンハイマは、ただ単に強く殺しがいのある相手を求めているからなのか、あるいはもっと根の深い別の理由があるのか、容易に理解できるような人格でないのは確かですね。見せ場の多かった彼女は、続く物語でもまだまだ暴れてくれそうな感じですね。意外なところでは、人格破綻の狂人的な暴君かと思っていたら、自身の娘であるペトレリカには、親心を見せるとか、人間らしい側面もあったりで、単なる敵役としてすぐさま退場してほしいと思ってしまうような見下げたキャラクターでないというところでしょうかね。
ペトレリカは、理想の高さとそれを実現するための実力の不足の狭間で悩みつつも、この作品では滅多にいない良識派の人物。まぁ、親が親なのでどこかで彼女の裏の顔が目を覚まさないとも言えないのですが、パンハイマやアンヘリオに毅然と相対できるその芯の強さは本物なのかなあ。終盤では気持ちが空回って思いっきり死亡フラグを立ててしまってるんですが……。
エリダナの地へと運ばれてくるザッハド。新たな使徒の到来と、始まりを告げる悪魔の祝祭。そこに加わる復讐に駆り立てられる老狩人・ロレンゾに、なぜか巻き込まれてしまっているガユスたち。これだけのボリュームがありながら、まだプロローグが終わったくらいというのは先の展開がどれだけハードなものになるのか思いやられますが、ついに突入した完全新作のストーリー。今度こそ失敗しないで物語が進んでほしいものですね。
hReview by ゆーいち , 2010/09/10
- されど罪人は竜と踊る9 (ガガガ文庫)
- 浅井 ラボ , 宮城
- 小学館 2010-07-17
コメント