断章のグリム〈15〉 ラプンツェル・下

stars ごめんね。それから、今までありがとう。

「いま敵じゃないひとは、いつか敵になるひと。まだ気づいてないだけだよ……」
葬儀屋の蘇りによる影響はまだまだ続く。蒼衣に復讐を誓う少年は、自分も死ぬ覚悟で蒼衣を苦痛の海へと沈めていく。遠くなりかけた視界に佇むのは、かつて蒼衣が破滅させ、いまは蒼衣を破滅させつつある、死した少女の姿だった。
そして、蒼衣の窮地を救った雪乃も、勇路を始末するべく、動き出す。いまだ真相の掴めない“泡禍”に加え、勇路の存在は危険すぎた。蒼衣を置いていくことに不安は残るものの、雪乃は一人“騎士”として得体の知れない“泡禍”の渦中へと飛び込んでいくのだが――
悪夢の幻想新奇譚、第十五幕。

[tegaki]生きるも地獄、死ぬも地獄[/tegaki]

何ですかこの展開。物語の結末は毎度毎度、容赦ない展開で後味悪い展開の果てにたどり着くものですが、今回はとびきりですよ!? 救われなすぎる。

ラプンツェルにまつわる〈泡禍〉による悲劇に乗じて、自身の願いを実現するためにためらいなく冷徹な選択肢を選べる人間は、その内面まで人間であり続けることができるのかという根源的な問題に対する答えの一つの形。いや、元々〈泡禍〉の災厄に見舞われ、生き延びたとしても、断章を身に宿すという業を背負わされた時点で、ゆっくりと狂っていくしかないというのでしょうか。

そういった意味では、今回のラプンツェルの物語の真実――掴んだ物が間違っていて、大切な人を失うという読み解きは、今回のエピソード全体を通じて、流れていたテーマでもあったのかもしれません。ことごとく選択を誤り、手を伸ばした先に待っていたのは悲惨な死でしかなかった〈泡禍〉の苗床となった眞守家のひとびともそうですが、事件解決のために選んだ手段が誤っていて、結果的に神狩屋さんを失ってしまった蒼依や雪乃さんたちにとってもそうであったのだと思えます。

一方で、復讐するためだけに生きるという壊れ方を選んだ馳尾勇路くんだけが、狂気を演じていながらも狂いきることができず事件の解決役となったというのは皮肉なお話ですよね。

悪夢によってもたらされる惨劇の異常さは、毎度ここに極まれりと手を変え品を変えの見せ方をしてくれますが、今回も全身がむず痒くなるようなものから目を背けたくなるようなものまで様々。手というパーツだけでここまでおぞましい光景を想像させられるとは思いませんよ。あと魚。ううう、想像したくない。

さて、事件の結末としてはラプンツェルの悪夢の結末よりも、蒼衣たちの寄る辺となったロッジが事実上瓦解してしまったことの方が精神的な影響を及ぼしてきそうですね。

過去の悪夢と現在の幻にさいなまれ続ける蒼依の断章は、この上なく不安定にナリ暴走すればバッドエンド一直線。神狩屋さんのように、死が唯一の救いになるケースもあれど、やはり生きて生きて生き抜いてから、たどり着いて欲しい結末ではありますね。……それが断罪のような生だとしても。

でもまあ、容赦も慈悲もないそんな結末が用意されていそうですよね、この物語の場合は。不吉なエピローグから続く物語はどこへ向かっているのでしょうか。

hReview by ゆーいち , 2012/01/11

断章のグリム〈15〉 ラプンツェル・下

断章のグリム〈15〉ラプンツェル〈下〉 (電撃文庫)
甲田 学人 三日月 かける
アスキー・メディアワークス 2011-08-10

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