僕は思うんだ。この子の目から見て恥ずかしくない僕でいられるのなら、この子が信じるような強さが少しでも僕にあるのなら。僕は僕自身の強さを肯定するよ。
霊能力者を喰らうために暴走を始めた砂入道。鏡を自在に操り最上階を目指すトリックスター、ムガル。そして、圧倒的な力を持つ天草家の陰の支配者、ザ・レディ。
雅人とキチ、天草沙代は、それぞれの想いを胸に、彼らへ最後の戦いを挑む!
天草家の次期当主をかけた大バトル大会“奉り”が、ついに終結! 果たして、真の勝者となり、次期当主の栄光を掴んだのは誰!?
疫病神から転職したばっかりの福の神キチと、最強の“ごえん”使い・外神雅人のハッピーラブコメ、第10弾!
[tegaki]“最強”の証明![/tegaki]
いやぁ、沙代さんの不幸っぷりはここに来るまでも大概に描写されてきましたが、今回の突き落とし具合も半端なかったですね。ヒロインに白目向かせて昏倒させるとかって、作者は無慈悲やぁ!
けれど、彼女の地獄の釜の底の状況をひっくり返してくれる存在が、今、ここにはいるのです。日本最強を掲げる“ごえん”使い・外神雅人が。彼の活躍ぶりはまさにヒーロー。外道の限りを尽くし神経を逆なでしまくってくれた天草家の人外たちにたいして、一歩も引かぬ真っ向勝負。これまで存分にふるわれることなかった、彼の本気が今牙を剥く! なんとも燃える展開です。このシリーズの長丁場の中で、溜まりに溜まった鬱憤をすかっと晴らしてくれる活躍でしたね。
強さは相手を否定し、己の意志を通すことだという、ザ・レディの言葉。それを否定しようとする雅人は、けれどその方法は彼女と同じような手段を選ぶしかない。戦いの場において、どれだけ言葉を尽くそうとも、それが通じない相手は確かにいるのだから。だから、雅人はその力を自分のためだけにふるわない。これまで彼が本気を出せかなったのも、出さなかったのも、力による解決はほんとうにどうしようもないときのための、最後の選択肢であったかもしれないから。
どこか、自分の力の大きさを疎んでいた感のある雅人。けれど、今回の“奉り”での戦いを通じて、彼は自分の力をどう使うのかということに、少しは自覚的に、前向きになれたのかもしれません。彼が尊敬する、天草沙代という少女を救うことができたのも、彼が大切にするキチという少女を守ることができたのも、彼の中に力があったからだから。自分のためでなく、誰かのために怒れること、戦えること、それが今回拳を交えることとなったザ・レディとの決定的な違いにして、彼が――“ごえん”使いが最強たるゆえんなのかもしれませんね。
ああ、けれど、この結末は気持ちがいい。すべてが嘘まみれだった天草家の真実だとか、本当の黒幕だとか、敵と味方が反転したりとか、危機を逆転するためのさまざまなカードが切られながら、最後は主人公の力押しという正攻法だったのがすばらしい。彼のまっすぐさを目の当たりにして、沙代さんが惚れ直すのもむべなるかな。ツンデレしてる場合じゃないですぞ。雅人が二ノ宮さんのところに戻っていく後を追いかけて行かないときっと後悔しますよー!
今回のエピソードを通じて、日本全土にとどろく雅人の名前。これからどんどん狙われることになるし、また新たな出会いも用意されているようですね。別シリーズの主人公たちの顔出しとか、ファンサービスも嬉しいところですが、残念、私は『いぬかみっ!』読んでいない……。
さてさて、少し勢力図が変わったような気もする雅人を巡る恋のバトル。次巻以降はそっち方面の進展にも期待ですよ。
hReview by ゆーいち , 2012/02/12
- ラッキーチャンス!〈10〉 (電撃文庫)
- 有沢 まみず QP:flapper
- アスキーメディアワークス 2011-10-08
コメント