明日から俺らがやってきた

2012年7月23日

stars 俺も一緒に同じ場所に進むんだ。ダメだったらもう一年努力すればいい、なんて絶対に考えちゃいけない。正々堂々と高瀬のそばにいなきゃいけないんだ。俺は。だからもう覚悟を決めるんだ。高瀬涼の隣にいるために全身全霊を賭けると。

推薦入学で大学デビューして女の子にモテようか、それとも将来のために上を目指して大学受験しようか。進路に悩む俺、高校3年生・桜井真人の前に突然、未来から“俺”が時間を超えてやってきた! しかも二人も!! チャラ男とガリ勉の桜井真人…って本当に俺かよ!? でも俺の秘密(エロ本の隠し場所)を知ってるし…どうやら本物。そして、どちらの未来を選んでも最悪の人生らしい……。
そんな中、クラスメイトで同じく進路に悩む『氷の女王』こと高瀬涼と仲良くなった俺は高瀬の未来も不幸らしいと聞いてある決断をすることになるが……。ちょっと大人の“俺ら”とおくる、未来系・青春ラブコメ!(……なのか!?)。
第18回電撃小説大賞〈電撃文庫MAGAZINE賞〉受賞。

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="DeepSkyBlue" size="24″]明日の君と逢うために[/tegaki]

うーん、これはけっこう対象を選ぶ物語かも? リアルタイムで受験や進学で悩みを抱えている10代の読者には、進路を選ぶということがどんなことに繋がるのかというのをコミカルかつ過剰だけれど、決してあり得ない範囲で描いているあたり、一読の価値があるような気もします。むしろ、こういう苦悩をまざまざと見せつけられてさらに悩みが不覚なる可能性も、なきにしもあらずですががが!

逆に私の年齢くらいに一回り以上干支が廻っている立場からは、作中に登場する、真人の未来からやってきた本人である『推薦』や『受験』たちの思いにだぶる部分があったりして痛い。というか、本気で痛い。

あの時にああしていればよかった、こうしていればよかった、やり直せるのならという願望が生んだ奇跡的な現象。真人の前に提示されたふたつの選択肢はどちらも確定的に、本人が望んだ未来ではないことが説明される中、未だ定まらぬ進路を、当の本人はどう選び取るのか……。

そんな等身大の悩みに、クラスメイトの近寄りがたく思えた美少女、『氷の女王』・高瀬涼がどう関わってくるかというと、未来のふたりが提示した選択肢以外の可能性の提示。クラスで少し浮いている涼を何とかしようとしている間に、真人の気持ちも変化していって。ああ、この年頃の少年としては、かわいいあの子とお近づきになれたら、それは頑張る原動力になるよなあ。進路に悩みながら、恋に悩むとかいろいろ大変な気もするけれど、彼の恋が本気になればなるほど、新しい進路は近づいてくるという現実感はありますよね。レベルを上げた志望大学の模試で良い判定が出ずに苦しむ様とか、それを挽回しようと無理を重ねて身体を壊す失敗とか、受験生の陥りがちな罠は当事者ならずとも胃が痛い……。こういうときに助けてくれるのが自分自身だというのがフィクションならではですが、自分が苦しいときに頼れる誰かはそばに居るんだと、そう思って見回してみればそんな人物は意外と見つかるんじゃないですか?

けれど、前途洋々な未来図の前に、立ちはだかるのも自分自身。結局、どの道を選んでも大なり小なり後悔を得るのは生きていれば仕方ないこと。それを、真人の年で気付くことができるのは、ある意味では夢がないのかもしれないけれど、逆にそれでも諦めない覚悟を得ることに繋がった点では恵まれてもいますよね。そんな希有な経験をして、真人が進む未来は、幸せそうに見えてやっぱり一筋縄ではいかなそう。

大学進学という大きな山場をなんとか乗り越えても、その次に控えているのは涼との関係がどうなるのか。喧嘩したり仲直りしたり、その先に待ち受ける「お嬢さんをください」的な場面ではとんでもないハードルが用意されていることが確定しているわけですが。はたして、武闘派への道を歩むのか別の道を探すのか、未来からのアドバイザーは役に立つのか立たないのか、喧々囂々たる様相を呈してきていますが、この賑やかな自分たちとのお付き合い、果たしていつまで続くのやら?

受賞作品にしては、さくさく読めすぎて物足りない部分もありましたが、人によってはけっこう痛い思いをするお話なのかもしれませんね。

hReview by ゆーいち , 2012/02/12

明日から俺らがやってきた

明日から俺らがやってきた (電撃文庫)
高樹 凛 ぎん
アスキーメディアワークス 2012-02-10