リィゼは罪を犯した。だが、それゆえに、徳を重ねた。命を救い、魂を救った。俺たちはそれを知っている――俺たちはそれを見てきている。だから、これからも彼女がそうすると、信じている……!
[tegaki size=”36″]数限りない非業を背負い[/tegaki]
宝島社から献本いただきました。
第3回『このライトノベルがすごい!』大賞・大賞受賞作。私の観測範囲では結構話題になっていたのでまずは本作を手に取ってみました。
……うむむ、これは確かにダークだ。のっけから救いのない描写がどんどんされてますね。
死術――生と死をもてあそぶかのような禁断の術が、その根源にあるのが『願い』であるという設定は、本当に救いがないですね。望みを叶えるために選んだ手段が外法も外法、たとえ、その願いが何かの形を取ったとしても、それは決して本人が本当に望んだものではあり得ない。その先に待ち受ける悲劇へただただ突き進むしかない片道切符のようなものだという、支払うには余りに大きな対価。
純粋に、あるいは狂気に駆られて手を染めた人物は決して救われることなく悲惨な末路を辿るという、その様を、血なまぐさく描写してくれるものだからもうね、お腹いっぱいになりそうです。個人的には冒頭、第一章の領姫を巡るエピソードののっけから衝撃的な描写をしてくれたものだからぐいぐい引き込まれていきましたね。ただ、何となくそこのインパクトが強すぎてそれ以降の悲惨系の描写が物足りなく感じたり……。ひさびさに現れた暗黒ラノベの書き手としてはこの先にさらに期待したいところですね!
物語を引っ張るのは傭兵であるアルフォンス、死の運命を弄ぶ者たちを狩る役目を負う精霊デュラハンたるリィゼロット、そしてリィゼロットと同行する死者の声を聞くことができる巫女的な存在のフリーダ。とある土地でリィゼロットたちに救われたことから生まれた縁が、三人の運命を一点に収束させていきます。
死術を手にしたことで生まれる絶望、それによって死せる人々の救われないままの魂。デュラハンたるリィゼロットは死術を使うものを滅ぼし、その魂に救いを与えるため戦い続けています。彼女自身も果てしない絶望の果てでその魂をデュラハンと化した過去があるゆえに。
惜しむらくは全3章構成にしたおかげなのか、各章の分量がやや物足りないというところかな。登場人物の紹介から事件解決までがかなりハイスピードで進むので、あっという間に事件が起きて終わったという印象が強かった気がします。特に3章ではアルフォンスと因縁の深かったライナルトの問題がそれはもう速攻で解決してしまって、え、もう? なんて思ってしまいましたから。リィゼロットの過去も非常に重いものであるのは説明からも分かりますが、感情移入するにはもうちょっとボリュームを……なんて無い物ねだりをしてしまいますね。ただこの作品に登場する精霊と化した人物たちの嘆きや悲しみ、苦しみに絶望はもう、人知を越えたものであるのでそれを鬱々と書かれても、という問題は残るのかもしれませんね。
そんなダークな物語ですがラストシーンへ向かっての盛り上がりはむしろ正当派な印象ですね。特にアルフォンスがリィゼロットのために戦うことを決め、そして選んだ手段、覚悟、その結末はヒーローといっても良いくらいの熱さ。個人的には冒頭のキャラがひょこっと再登場したり印象変わっていたりでと妙な気持ちで読んでいきましたが、自信の過去に決着を付けるためのラストバトルとしての盛り上がりはなかなかのものでしたね。
数え切れない罪を重ね、購いきることはできなくても、それとは別に誰かを救い続けることで、ささやかながらも救いを赦しを得ることができる。死術に手を染めるのとは逆の流れで、絶望に沈んでいた誰かが、誰かを救い希望につなげるという、この世界そのものは闇に染まりきっているのではない、希望はある、光は差すのだと、そんな前向きな印象で締めくくられる物語でした。
hReview by ゆーいち , 2012/10/23
- ロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫)
- 紫藤 ケイ 雨沼
- 宝島社 2012-10-09
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