六花の勇者〈2〉

2013年4月18日

stars わたしは、世界を守りたかった。お前たちとともに凶魔を倒し、魔神の復活を阻みたかった。つい昨日まで、いや、ほんの一時間前まで、わたしはそうするつもりだったのだ。

六花の勇者〈2〉 書影大

「七人目」だったナッシェタニアは去ったが、ロロニアという少女が現れ、またもや七人になってしまった六花の勇者たち。
魔神再起までのタイムリミットが迫っており、疑心暗鬼はぬぐえないまま、魔哭領の奥へと進む。
するとそこへ一体の凶魔が現れ、モーラに「君には時間がない」と告げる。
さらに凶魔を束ねる統率者の一体、テグネウが六花の勇者の前に突如現れる。それは「七人目」の関わる策略なのか!?
混乱の中で激闘が始まる!
伝説に挑み、謎と戦う、圧倒的ファンタジー、第2幕!

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″]疑心暗鬼の中の激闘![/tegaki]

前巻の引きから一体どうなるのか、これ、リアルタイムで作品を追っていたら非常にやきもきしたんでしょうね。そして、一気に既刊を購入した人は、裏面のあらすじを読むと壮絶にネタバレする罠。これ、ミステリ要素が作品の肝な場合は致命傷過ぎるでしょう、編集仕事しろ! 私は幸いにして、裏面読むことなく本編にたどり着けましたが、犠牲者いたんだろうなあ……。

さて本編。前巻の引きも凶悪でしたが、今巻のプロローグも凶悪。いきなり六花の一員が倒れているシーンから始まるとか衝撃的にもほどがある! この段階でぐぐっと物語に引き込まれたら、そのまま最後まで一気読みでしょう。

新たに登場した六花候補と、結果的にもう一人存在することになった「七人目」。裏切り者が一人ではないということもアドレットたちには信じられない事態ではありますが、敵であるはずの七人目が、裏切りの素振りさえ見せず、戦いは続いていきます。

魔神側で凶魔を束ねる中ボス格の凶魔・テグネウも登場し、魔神側も一枚岩ではないということがフレミーの口から語られます。知性のかけらもない、単純に人間を滅ぼすだけの敵かと思いきや、一定以上の凶魔に宿っている知性は人間と同等かそれを上回り、そして会話の余地があることが驚きだったかも。敵が手練手管を弄し、人間側の勢力を切り崩しにかかっている、それは過去に起きた六花の勇者との戦いの中で、凶魔側が自らに施した進化で、それは六花側にとっても目の前の戦い以上に危険な罠でもあります。

そういう意味では、ファンタジーものながらもミステリ要素が強いこのお話は、敵とのぶつかり合いの戦いそのものよりも、お互いの裏をかきあう頭脳戦の重みが並々ならぬレベルになっているんですよね。敵と交渉し約束を結ぶ、その一行為にさえ、様々な思惑が絡み合って、命がかかっている大きな制限の中で、敵の思考を上回るために知力の限りを尽くす、この緊張感は剣を切り結ぶのとはまた違う緊張感ですよ。

それが、誰が敵か分からない極限状況の中で続くわけだから気が休まりませんね。誰かを疑ったら、また別の誰かが疑わしくなる、そんな疑惑の連鎖が起こる中、アドレットは確信が持てるまでは皆を信じるということで、空中分解しそうな七人をつなぎ止めていますね。こういうバカ正直な性格をした主人公だからこそ、裏がありそうな他のキャラから一定以上の信頼を得られるのでしょうね。他の六人が一触即発、疑惑の目を向け合ってる中で、ひたすら仲間を信じようとする愚直さが好感です。

まぁ、今回の展開は、順当に疑わしいと思っていたキャラが疑われ、けれど、それをその人物が張り巡らせた策でなんとか切り抜けたといった感じでしょうか。けれど、敵もさるもの、それさえも織り込み済みで、その上を行こうとするなど、知恵比べが白熱しましたね。

魔神復活までのタイムリミットが明確に存在する以上、仲間を疑いながらどこまで行けるのか、どこかで限界が訪れそうな危うさはまだまだ薄れてはいませんね。七人目が、いったいどんな場面でどんな牙を剥くのか、まだまだ目が離せません。

そして、エピローグで語られる他の勢力の動向。凶魔側からも裏切り者と誹られるドズーの元に、あの人がいるとか、戦いの構図はよりややこしくなりそう。ホント、先が読めないストーリーですね。

hReview by ゆーいち , 2013/01/21