とびっきりの笑顔に、ぞっとしない単語。この業界における『地獄』。それを比喩だと思っていたのは、まだ俺のお尻が南国の海みたいに青い青ーいころだった。
そんなセリフをどこかで聞いたことがある。
ゲーム制作を生業としている俺には、ある種味わい深い。
俺の人生は、といえば結構いいかげんだったわりには、イージー寄りのノーマルだった。
過去形なのはエンディングを迎えたから。現在、自分の葬儀の真っ最中。だけど明らかにおかしな点があって……俺はどこに出しても恥ずかしいアラウンドフォーティ、略してアフォのおっさんだったんだが、なぜか今はティーンエ――――あ、息子が『身体を返せ』と叫んでいる。
予想外の展開から始まる新感覚のPCゲーム業界物語。
ちょ、帯をめくるとLienのパッケージがあるじゃないですか! すでに大昔の作品ですが、個人的には非常に思い入れのある作品のシナリオライター荒川工の新作。買わないわけがありません。しかも、今回はかの作品を彷彿とさせるような幽霊もの。そして、えろげ業界もの。
いや、これは楽しい楽しい。作者の真骨頂とも言える軽快なギャグとテンポの良い物語展開、個性的なキャラクターたちに、ちょっといい話で迎えるエンディング。1冊に詰め込むには過剰なくらいの展開を盛り込んでいるおかげで、シーンごとの掘り下げが物足りない部分もありますが、それでも大変楽しく読ませてもらいました。
えろげーを作ろう! なんて作品は過去にもいくつかあって私も何作か読んだりしましたが、業界歴も長い作者が描くと、妙に生々しい描写が多くて苦笑してしまいますね。この辺りは、「冴えない彼女の育てかた」でも感じたことではありますが、経験を元に描くと業界の暗部が分かってしまってショボーンとなる可能性も? 章の合間に挿入される業界用語解説も、毒を含みつつ分かりやすく、そして、やはり修羅場ると大変なのね、なんて業界人の悲哀まで感じられて涙がほろり……。
ああ、そして、お話。もう、冒頭からおかしい展開でわりと置いてけぼりですね。主人公・龍介の葬式から始まって、その主人公は息子の身体を間借りするという筋。アラフォーのおっさんが主人公なのもおかしいし、登場する女性キャラの平均年齢も、ほとんどが業界人なおかげで、他のラノベとは一線を画する平均年齢20歳オーバー(笑) すごい、斬新! まぁ、高校生世代の息子、忍や、いちおうのヒロイン(?)であるはずの平栗さんが関わってくるとはいえ、そちらサイドのお話は本編のゲーム制作サイドに比べると比重はやや軽めでしょうか。いや、忍の男を上げるためのイベントとかも最後に要され、ここへ至るまでに見せる主人公の言動も格好良くて、期待通りの展開を見せてくれました。けど、それ以上にゲーム制作に関わるスタッフたちの熱情の描かれ方が好みすぎてもうね……。
龍介の死によって頓挫しかけた企画をなんとか進めようとするスタッフたち。ブランドの色=龍介のシナリオという状態で、彼の死を隠したまま新作を発表しようなんて無茶な状況に手を貸すことにいなる忍(と龍介)。おっさんin高校生という奇妙な状態で、二足のわらじを履きながら迎える修羅場、マスターアップ前の苦渋の決断。龍介を尊敬している後輩・穴水さんとの衝突を経てのなんとかの決着。創作、それも商業に関わることだけに、なあなあでは済まされない領域でのやりあいの緊張感はこっちの方が胃が痛くなるようです。それもこれも、失ってしまった龍介という存在の大きさと、彼の人格が褒められたものではなくても慕われるものだったということに起因するがゆえで。そして、その山場を越えてから描かれる、故人への思いの暖かさについついほろりとさせられます。ああ、もう、こういうストーリー描かせたらやっぱり上手いよ。
自分自身と息子の問題、それぞれの一定のけりを付けて思い残すことはもうない……と来たら、消滅するのがお約束。だけれど、このお話はそこでは終わらない。幽霊の成仏を邪魔するとか、どんな業ですか、いなほさん、そしてどんだけ未練たらたらなの主人公。でも、こういう大人の世界の複雑な事情ももっと描いてくれるなら願ったり。忍の方の物語も、平栗さんとの関係はようやく進みだしたばかり。彼女のルートはまだまだエンディングまでは遠い道。
僕たちのえろげー制作はまだ始まったばかりだ!
次巻へ続く。って、え、田中ロミオっぽい人出るの? ちょー期待なんですが!
hReview by ゆーいち , 2013/02/03
- やましいゲームの作り方 (ガガガ文庫)
- 荒川 工
- 小学館 2012-12-18
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