刮目しろ。これぞ聖剣の
その光景は、まるで墓標。――そしてこの計画が、新たな事態を引き起こすことに。
一方、キャンベル家のメイド・フィオはセシリーのためにウエディングドレスを用意していた。かたやルークもまた、セシリーのためにリサとともに“ある刀”を打つ。
やがてくる帝国との最終決戦を前に、一条の光がこぼれ射す、最新巻!!
物語も佳境を過ぎあとはクライマックスへ一直線。
前巻で無事に結ばれたセシリーとルークのやりとりににやにや。お互いの変わった距離感が嬉し恥ずかしで、今までの緊張感たっぷりだったぎりぎりの状況から、少しだけ抜け出せた安心感を覚えます。二人の墓前での結婚の報告とか、短いシーンながら沁みますね。こういうのを律儀に果たすのがこの二人らしくてとてもいい。
そんな一息つけた時間はけれど短く、ヴァルバニル復活が目前であることを嫌でも想像させる火山の活発化。地震に噴火に溶岩に。自然災害まで街を襲って戦争どころではない、と思いきや、その原因となったのはまさかの先代聖剣とか。当たり前に人化して山を下りてくるとか自由すぎるお方です。
されど、彼女のおかげで聖剣完成への道のりが一気に開けたと要っても過言ではないはず。材料に鍛錬の方法に、そして最後に打ち手である刀鍛冶を相応しい舞台へ上げるための一押しと、なんだかお話の都合を感じずにはいられませんが、彼女が登場したおかげで、全てが上手く回り始めたように思います。
視力を失い、魂まで消耗しきっていたルーク。彼の代わりに刀鍛冶として聖剣を打とうとしながらも、未熟さ故に苦悩していたリサ。二人の失われていたものを、別の形で補い、そしてまた互いに失っていく。この二人の関係性もまた、セシリーのそれとは異なりますが不可分で、そしてとても深いところで繋がっている、まさに理想的な信頼で結ばれている、パートナーなんですよね。
紆余曲折あり、ようやくたどり着いた聖剣鍛錬。やはり、セシリーのパートナーとなるのは、彼女しかいない。アリア待望の復活がついに! 銘なしとアリアという二振りの魔剣から生まれた次代の聖剣『アリア』。名はかつての魔剣を受け継ぎながらも、生まれたての彼女は決して元になった二人の魔剣のどちらでもなくて、それが少し切ないですね。関係を最初からやり直すという覚悟を決めた魔剣の戦友、友人たちの覚悟があったとはいえ、読者としては長く付き合ってきた人格が消えてしまったという喪失感は確かにあるわけで……。けれど、セシリーたちにしてみたら、別れと再会が同時に訪れたようなもの。このままでは再会の機会などなかった絶望的な状況から、一転、再開に繋がるのだから、悲しみを越えてしまえばあとは希望しか残っていないのでしょうね。
二国一都市会議の緊迫した場に、ウェディングドレスで飛び込むセシリーの勇ましさよ。アリアという再考のパートナーを取りもどし、向かうところ敵なしな高揚感に満ちた表情が、今回の表紙絵なんですね。ドレス姿に刀という組み合わせはこういう場合にしかマッチしないなあ(笑)
さあ、これで手札は全部揃ったかな? ヴァルバニル・帝政列集国を相手にした最後の戦い開幕まであとわずか!
……一方で、シーグフリードの出生の秘密も明かされましたね。何というか、彼もまた犠牲者なんでしょうけれど、その根本にある破壊衝動が子どもの我が儘に似ているというのがやるせない。初代ハウスマンの狂気がどれだけのものだったのかということに費やされた文量を思うと、本当に天才と何かは紙一重という言葉を実感しますね。しかし、世界を壊すために動き始めた男はもう止まる気などない。あとは、どちらが生き残るのか、総力戦の果てに立っていたものが、世界の命運を握るということなのでしょう。
hReview by ゆーいち , 2013/04/13
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