長さが一番じゃなかったとしても、そんなの関係あるもんか。これまで積み重ねられた思い出より、これから積み重ねていく想いのほうが大切なんだ。たとえこの先なにがあろうとも、ぼくは――一番大切な君のそばにいるよ。
大人気爽やか系変態ラブコメ第5弾! これは、過去から未来へと繋がる「想い出」の物語――。
後先考えない優しさというのは残酷で愚かだと、それこそ後になって気付くのですね。
猫神様の万能の力はついに時を越え、やって来ましたは10年前。筒隠姉妹のイタリア行きを止めるために、怪しげな鋼鉄さんの思い出の裏を取る手っ取り早い方法は、タイムスリップすること、っておい!
いやね、これが時間を越えた旅とかでなく、むしろ猫神様が見せた幻覚だったらどれだけ良かったことか。明かされた真相というのは、幼い横寺少年が、彼のその優しさゆえに祈ったことにより生まれた奇跡が10年後まで尾を引いていたということ。そして、もしかしたら、10年後の変態王子が過去でかつての自分に伝えた言葉に端を発して生まれた物語かも、となるとワケが分からなくなってきますね。
そして、ここで親子の絆話を持ってくるのはズルい。涙腺に来てしまいます。筒隠姉妹の絆のお話は姉がアレ過ぎて今では残念なネタ話になってしまっていますが、10年前、離ればなれになってしまった母と娘たちの不器用で、遅すぎる始まりのお話は、その先の死別が分かっているだけにずんとのしかかる思いです。記憶があやふやといっていた月子は、幼い頃もまた今と同じような表情に乏しい不思議ちゃんというのが微妙に引っかかるところではありますが。鋼鉄さんの方は、10年の間に彼女が残念な有様になってしまったその理由付けに、ああいう「約束」を持ってくるのは、正直ズルいと思います。まぁ、周囲には理解されないだろうし、そして彼女も語ろうとはしない記憶の奥底に沈んでいる思い出なんでしょうけれど、彼女が単に自分の好き勝手していた結果による今の残念さなのではなく、彼女なりの信念に基づいている残念さだということが分かったのは……いや、でも、いろいろダメだろ、今の状況を見ると(笑)
一方の横寺少年。彼と筒隠姉妹の接点は、忘れ去られていたとしても確かにあのときにあったんですね。その思い出を丸ごと誰かに渡すなんて、そのリスクを理解してない子どもであるが故の無茶に思えますが、でも、彼はその行為がどういう結果を生むか漠然と理解しながら手放していたみたいなんですよねえ。美しい自己犠牲、なんて言葉で片付けるには残酷すぎる行いは、彼のどこか異常な考え方の裏打ちでもあり、そしてその思い出を同時に体験させられた月子にとってはとんでもない衝撃だったんでしょうね。聡い彼女は現在の彼がどういう状態なのか、そして、彼が誰かと深い関係になることなどどだい無理だということ、期待していた自分との出逢いを思い出してもらうということが絶望的だということを思い知らされたわけですから。
巻を追うごとに、月子の行動はより直接的に陽人との関係を進めることを望んでいるように見えましたが、これが彼女本来の我が儘さなんでしょうね。子どもっぽいと自嘲する彼女は、文字通りに子どもで、悪意の元にもたらされた甘い誘惑に乗ってさえも、自分の願望を叶えようとする無鉄砲さをときどき見せてくれています。その願いの先には常に陽人がいたりするわけですが、無表情ながらに自己主張の激しい彼女の、気持ちを違えて受け止めることはそろそろ陽人にもできなさそうだなあ。
最後の一歩を縮める決意をしたのははたしてどちらからなのか。その踏み込みが、これからの泥沼を招くことを自覚しながら縮んだ二人の距離。二股三股になるともはや修羅場は避け得ず、そして、その想いを忘れ去らないためには常にそばにいなければならないとか、もはやハーレムルートしか選択肢はないじゃない! 女の子たちの恋のバトルは加熱していきそうですが、残酷な優しさを持ったままの陽人は、これから彼女たちにどんな仕打ちをもたらすのでしょうかね。なんか、ラブコメからがっつりシリアス方向にシフトしそうですが、そういう重い話、嫌いじゃないですよ?
hReview by ゆーいち , 2013/05/05

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