映画「HELLO WORLD」感想 ネタバレあり ようこそ新しい世界!

HELLO WORLD
HELLO WORLD
あらすじ

京都に暮らす内気な男子高校生・直実の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミが突然現れる。
ナオミによれば、同級生の瑠璃は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうと言う。
「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。
しかしその中で直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、そしてこの現実世界に隠された大いなる秘密を知ることになる。

デジタル世界を舞台にしたラブストーリー……

なんてシンプルな物語ではありませんでした。予告で使われている「この物語はラスト1秒でひっくり返る」という言葉に偽りなしなラストシーンでリアルで「は?」となってしまったのですよ。

まったく新しい展開かといわれればそういうわけではなくて、それこそ映画「インセプション」を彷彿とさせるようなシーンやラストであったり、あるいは伊藤智彦監督の「ソードアート・オンライン オーディナル・スケール」をはじめとしたSAOシリーズを思い起こさせるような設定だったり世界観だったりするので、目新しさよりも私にとってはある程度親和性のあるストーリーだったような気がします。

ということで、どんでん返しに期待しても良いですし、さらに予告編から「こんな展開だろう」と予想していた人ももう1枚2枚物語のレイヤーが重ねられている可能性もあるので、観ておいて損はないですよー、とおすすめしておきます。

物語はマニュアル通りには進まない

冒頭の主人公・直実の描写は、彼の性格がどんなものかを如実に表現していましたね。自分を変えるためのマニュアル本を読みながらも、理想の自分になれないという悩みを抱えた引っ込み思案の少年。それはよくある定型な主人公像でもありますが、ある意味デジタルで構成された世界の主人公らしい無機質さでもありましたね。

一方で、未来の自分・ナオミ=先生と出会い、ヒロイン・一行さんへの想いを共有してからの前向きな姿は、これまた主人公らしくもありますね。ギャルゲーっぽい。

過去のあらゆる事象を観測しシミュレートしているという世界・アルタラの中で、どこまでが記録なのかどこからが新たに生み出されたシーンなのか、その辺を考え出すときりがないのですが、物語の終盤に向かっていくにつれ、世界は既定の路線から大きく外れ崩壊の危機へと向かっていきます。それは定められたシナリオから逸脱するということであり、回避するための正規なマニュアルなど存在しないということです。

先生と出会い、成長し、そして裏切られ(?)失われようとする世界の中で、指示待ちの自分ではなく、意志を持って一行さんを

現実と仮想の区別の付かない世界の中で

一行さんの心、あるいは魂を奪い現実世界へと先生が帰還した場面から物語は深みを一段増して展開していきます。先生が実世界だと思っていた世界も、アルタラの中に構築された世界だったという物語を一転させる事実。この辺は映画「コンセプション」が夢の中の人物のさらに夢の中へ潜ってくのと対照的に、上位の世界へ戻ってみたら、実はその上にさらに世界があったという形になっていますね。だいたいこの辺でワケ分からなくなるのですが、世界のレイヤーとしては、【現実世界】→【ナオミにっての現実世界】→【直実 にとっての現実世界】という3階層構造なんでしょうかね?

無限に情報を記録し続けるというアルタラの設定上、情報が爆発的に集積された結果として、無限の世界がそこに内包されていてもおかしくないのですが、実際の各世界の階層がどんな風になってるのかは明示されてはいなかったような?

そういうデジタルな世界観も面白かったのですが、それ以外でもそもそもの作品世界のレイヤー構造やSF的な要素の積み重ねは、なかなか心をくすぐるものがありますよ。

SFというには勢いで押し通してる部分が多いので、「SAO」などの作品に触れているならなじめる程度のSF的味付けといった方が角が立たないのかも知れません(笑)

自分と自分から分かたれたもの

直実とナオミは同日人物でありながら10年の時間経験の差があるということで、お互いから見たら同一人物というよりも年の離れた兄弟という感覚だったのかも知れませんね。

計画の実行のために直実を鍛える先生の姿も、一行さんとの関係が近づいていくことに互いに喜び合う姿も、兄と弟のように見えて微笑ましかったのですが。

しかし、自身の計画を遂行するために下位の世界を犠牲にするという決断をしていた時点で、あるいは、一行さんの心を器に移すという計画を思いついた段階で、ナオミは一行さんが知る、直実とは決定的に違う存在になってしまっていたのでしょう。それが狂っていたという表現が適切なのかどうかは別としても、手段と目的を取り違え、その行為が人道から外れる行いだと気付けなかったという段階で、彼は直実ではなくナオミに成り果ててしまったのですね。

誰が誰を救うための物語だったのか?

物語の構造としては、一行さんを救うために頑張っていたナオミを救うために頑張っていた一行さんの物語という複雑な階層を成しています。そうすると、本編の舞台となった直実と一行さんの役割というのがよく分からなくなるのですが、デジタルで再現された二人はその上層で計画を進めていたナオミの心と器を同調させるために必要だったというのが一つあるのでしょうか。

そのナオミ自身も、その上の階層では眠ったままの状態になり、逆に一行さんは彼を助けるために頑張っていたという、これまたどこで立場が逆転したんだろうという疑問が残ります。物語のラストシーンは、10年未来のナオミの世界よりさらに未来の世界に見えたので、現実の2037年に一行さんは脳死状態から回復して一方で直実は仮想世界で消えてしまった影響で、現実へ戻れなくなっていたということなのかな?

暴走したナオミの心を直実に近づけることにより、つまりは、最後に自分が消えるという決断をしたことで、本来の自分を取り戻し、肉体との同調に成功して未来で目を覚ますことができたのだと、そんな解釈をしていますが、果たして?

新たに生まれた世界で彼と彼女は生きていく

そしてデジタル世界の中で発生した開闢は新たな世界へと生まれ変わっていきます。これはシミュレーションされている存在ではなく、パラレルワールドとして新しく作られた世界で、共に過ごせなかった恋人としての時間を過ごしていくことになるのでしょうね。それは、ナオミが得ることができなかった青春時代であり、直実が激動の時間をマニュアルではなく自分の心に従って戦い抜いたがゆえにたどり着いたゴールです。

思わぬ遠回りをしてしまった未来の自分たちと、新たな世界で生きていくことになった今の自分たちという、すでに別の存在になっているであろう二人の直実と一行さんが、ようやく自分たちの幸せを手にしたという意味で、ハッピーエンドだったように思いますね。まぁ、世界の再構築とか、その辺は他の存在の犠牲とか考え出すときりがないのですが、それはそれで。

良質なSFアニメ

ということで一度の視聴では仕掛けられたギミックに全部気付くのは難しそうな作品ですね。一定の理解を持った上でもう一度見たりすると細かい部分が見えてきそう。

個人的に惜しむらくは、やはりキャスティングかなあ。割とアニメらしい画作りをしている作品なので、声優も俳優さんを起用するのではなく、アニメらしい声優さんの方が合っていたのではないかなあという気がします。

でも、俳優を起用したおかげで地上波などでの特別番組を放送できたりと宣伝効果が決して小さくはないわけなので、様々な要素を加味した総合的な判断としての現キャスティングなのだと思うしかないですね。

TVアニメとして再構築しても面白そうな題材なので万一そんなことがあったとしたらキャスト一新というのはどうでしょうかね?

個人的には物語の仕掛けも含め、予想していたより一段面白かったのでアニメ作品好きならチェックして損のない一作かと。良かったです。

ノベライズは物語の復習にどうぞ

公式ノベライズは取りこぼした台詞や設定の補完に役立ちそう。

ifストーリーの本作はエンディング付近の補完がされているようなので、ラストシーンの理解を深めるには読んでおいた方がいいのかな。