奏でる少女の道行きは ─ 黄昏色の詠使い〈2〉

2013年4月18日

stars 名詠と祓名の協奏 そして思い出せ己が名を

主人公のネイトや、彼を見守る立場にいるクルーエルが物語の前面からやや退いて、今回メインを張るのはエイダ=ユン。希代の祓名民としての周囲の評価と、祓名民としての役割の不条理さ、報われなさと、父への反目から逃げ出した少女。

彼女が学ぶ名詠の音色は白。

光の三原色を融和させた時、そこには白が生まれる。純白は穢れを拒み、弱き者を守る。
『反面、最も傷つきやすい色である──だからこそ、その担い手は最も気高い』

そう、作者が用語集で語っているように、大らかで笑顔を絶やさない眩しい太陽のような性格を『演じ』ていた彼女の、その裏に隠していた悩み、葛藤、そして克己が語られる第2巻。

テーマ的には比較的ありふれた、あるいは良くあるパターンのお話ですが、細音啓が語り部として描き出す世界は透明で、時に切ないまでの美しさで彩られています。作品独自の讃来歌、セラフィノ音語の詠が、盛り上がるシーンで印象的に使われているのも、そのような感想に至る大きな要因なのでしょうか。

エイダ自身が、祓名民としての道を選択する過程とともに、彼女の周囲の友人や先生の協力が暖かいですね。一番の親友のサージェスや、先生であるケイトや、もちろんネイトやクルーエルの支えや助力にどれだけ自分が助けられているのか。特にエピローグのサージェスの飾らない一言は、だからこそ彼女がこれまで望んでも得られなかった大切なものになり得たのではないかと。

また、大きな名詠の力に翻弄されるクルーエルと、彼女を真っ直ぐに支えようとするネイトのさりげない信頼関係の構築と関係の進展も見逃せません。少年らしい真摯さと、裏表のない純粋な思いを向けられたクルーエルの小さな心境の変化が心地好いですね。未だ、姉と弟、見守るものと見守られるもの、支えるものと支えられるものという少し距離のあるふたりですが、いつか、遠くない未来にはまた別の関係も見せてくれそうな予感を確かに感じさせます。

──物語の始点は、イブマリーとカインツの出会い。物語を引っ張るのは作品世界の現在を歩むネイトたち。そして、世界が動き始めたのは3年前。ラスティハイトとイブマリーの邂逅が大きな要因? 次巻以降、大きく話が動き出しそうなので、今後も楽しみなシリーズです。

hReview by ゆーいち , 2007/05/27

奏でる少女の道行きは ─ 黄昏色の詠使い〈2〉

奏でる少女の道行きは
細音 啓
富士見書房 2007-05