連射王〈上〉〈下〉

2007年7月16日

starsゲームに対して“本気”で向き合いたい全てのゲーマーへ

何に対しても本気になれないと冷めた思いを持つ主人公・高村昂。野球部の練習試合の帰りにいつものように立ち寄ったゲーセンで、見た──見てしまったシューティングゲーム「大連射」の難度 VERYHARD でのワンコインクリア。そこから始まる彼のシューティングゲームとの相対。それを通じて出会った人々との関わりを通じて、何かに対して本気になるということの意味を見つけていく、そんな物語。

シューティングゲーム自体が、すでにゲームジャンルとしての勢力をニッチな市場で担うのみに至っている現代に、敢えてこの題材で作品を出す川上稔の本気に痺れさせられます。過去のシリーズのような、超常の力によるバトルでなく、主人公は一般の高校生で、ゲームを攻略していく過程を中心に描いているのに、いちいち描写が熱くて熱くて熱くて燃えます。その辺は、やはりこれまでのシリーズで培われてきた重厚なバトル描写のテクニックが遺憾なく発揮させられている感じ。

初心者である昂が、「大連射」と出会い、それをワンコインクリアするまでが上巻、そしてその続編「大連射2」のファーストプレイ・ワンコインクリアを目指すのが下巻。ストーリーの説明としてはこれでカタが付いてしまいます。もちろん、その中で、少し気になる少女・蓮との微妙な距離感とか関係の変化とか、師事していたゲーマー・竹さん自身の物語とか、ストーリーに厚みを持たせる様々の要素が畳み掛けるように展開して、川上稔独特の文体と相まって、そのスピード感たるやまさに疾走というにふさわしいテンポを生んでいます。

本気であるということ、嘘をつかないということ、裏切らないということ、信じるということ、対人関係だけにあらず、昂が見せた「大連射」に対する真っ直ぐな気持ちと真剣さは、ゲームに夢中になった経験がある人の誰もが、一度や二度は経験したことがあるんじゃないかなあと、読んでいる最中も、読み終わったあとも思います。

ただひたすらに、ゲームを楽しむために、上手くなるために情報を集め解析し努力し身につけ、誰とも知らぬ人たちとゲーセンで時間を過ごした経験があったりする自分には、懐かしさと当時の夢中さがフラッシュバックしてきてやばいです。作中で竹さんが語る一言一言がいちいち琴線に触れます。すでに一線から引いてしまい、距離を取ってしまった自分からすると、竹さんが昂へ向ける言葉は眩しくて、そして竹さんの生き方がどうしようもなく羨ましく思えてしまいます。

理解されない、されようとも思わない、けれど自分だけは分かっている、本気になれるゲームという相手。そこにストイックに向き合った昂の物語は、きっとまた誰かが紡いでいく別の物語に繋がるのでしょう。そんな良い感じのラストでした。
読後は果てしなくシューティングゲームがやりたくなります。ゲームファンならハードカバーの値段の壁を越えても読むべき逸品かと。

hReview by ゆーいち , 2007/07/15

連射王〈上〉

連射王 上 (1)
川上 稔
メディアワークス 2007-01
連射王〈下〉連射王 (下)
川上 稔
メディアワークス 2007-01

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