杉井光新境地? ロックとクラシックをテーマにした美しい青春小説
心からの願いの百貨店──そう、ぼくが呼ぶがらくた置き場で、彼女と出会った。うち捨てられたピアノでもって、彼女が奏でたメロディがぼくの心に引っかかるけれど、その正体を掴むには至らなくて。そして、夏が迫る6月、ぼく・桧川ナオは彼女・蛯沢真冬と再開する。天才ピアニストと謳われた彼女は、けれどなぜかその手にエレキギターを携えていて……。
杉井光という作者は、過去の作品を見ても美しい文章を書くなあと思っていたんですが、本作はさらに磨きがかかっていた印象。これまでのシリーズで感じられていた、人間の暗くて黒い部分を廃して、年相応の少年少女の姿を描いたことで、物語自体の雰囲気が非常に美しく気持ちよい世界に感じられます。
クラシックやロックにはあまり詳しくはないので、作中で語られた、奏された楽曲が実際にどんな雰囲気かというのはピンと来ないんですが、演奏の描写がこれまたいい感じで、何となくですがその空気を感じることができました。
とある事情で他人と関わろうとしない真冬と、そんな彼女になんとか一泡吹かせたいという主人公のナオ、幼なじみの千晶、民俗音楽研究部部長・神楽坂先輩の思惑の絡み合い。
もっとも千晶と先輩は後半空気になってしまって、部活云々は実際にはほとんど関わってこないんで、その辺はちょっと残念。
全体的な物語の流れが、一貫していて起承転結きれいにまとまっていて、短編としての完成度はかなりのものかなあ。変にシリーズ化するよりここで終わっていても不満とかはないので、また、新しい短編に挑んでほしいかも。
hReview by ゆーいち , 2007/12/16
- さよならピアノソナタ (電撃文庫 す 9-6)
- 杉井 光
- メディアワークス 2007-11
コメント
コメント一覧 (2件)
[杉井光] さよならピアノソナタ
海岸沿いにあるジャンクパーツ置き場で、知り合った真冬が、ある日、僕のクラスに転校してきた。ピアニストとして名を馳せていながら、ピアノを触ろうとせず、超絶技巧なギターを弾…
(書評)さよならピアノソナタ
著者:杉井光 さよならピアノソナタ (電撃文庫 す 9-6)価格:¥ 641(税