人生に必要なのは、砂糖と好奇心とわずかばかりの悪意さ。
とある街のボロビルに居を構える『九探偵事務所』。そこで探偵業を営むのは、銀髪の美少女・
[tegaki]ヤンデレ、バンザイ!![/tegaki]
やはり恐ろしいのは悪魔ではなく人間よのお……。そんな感想を抱かざるを得ない結末を取りそろえた短編集。まぁ、最後の物語だけは、ハッピーエンド? な終わり方ですが、これはこれで悪魔すらときには騙してみせる人間の恐ろしさの一端であるという見方もできますね。
そんな感じで、ドロッドロに真っ黒なお話が続いたかと思ったら、次のお話で救いを見せてみたりと、意外に読後感は悪くなかったかな。
それもこれも、あくまである九が、悪魔のくせに人間が破滅する姿を見ることに、何らかの後ろめたい感情を抱えているように思える節があるせいかも。逆に使い魔たる一はおしゃべりで、自身の言のごとく悪意でもって人間に接するという人でなし。まぁ、人間じゃないですが。魂を差し出し、望みを叶えるために契約を行おうとする人間を、ひととは違う価値観ながらも押しとどめようとしてみたりと、もしかして彼女はかつては悪魔ではなく別の何ものかであったのではないか、なんて想像を飛躍させてみたりします。
そんな印象を確固たるものにしたのが、最後の挿絵の彼女の表情なんですが、終始しかめっ面、怒ったような口調、一に対する苛烈な仕打ち、とまさに悪魔、なんてキャラ作りをしているくせに、どこか根っこの部分では人間に対して少なからぬ好意を抱いているのかなあと思ってみたり。
むしろ、彼女と契約を果たした人間たちの望みの歪み、それ自体の想像の斜め上さに背筋を寒くしたりしますね。お互いがお互いを真に理解できないからこそ起こってしまった悲惨な事件、そこに通常叶うことなどない願いが叶ったとしたら、というイフが重なることで、それは悲惨を通り越して誰も彼もが救われない悲劇へと発展していく。そこにあるのは、愛情であったり、妬みであったり、哀しみであったり、寂しさであったり、過ぎた愛情が裏返ってしまった憎しみであったりと、縋る藁があったならばその先に地獄が待っていても掴まざるを得ない、そんな袋小路に迷い込んだひとたちの物語だったのでしょうか。特に「僕の、テディ・ブルー」は一見の価値ありかな。ヤンデレ的な意味で。
こういうダークな雰囲気の作品の中でもなかなか良い出来だったかな。イラストレーター繋がりで「麗しのシャーロットに捧ぐ―ヴァーテックテイルズ」辺りが好きだったひとは楽しめる可能性が高いかもしれません。あそこまで、怖くはないけれど。
hReview by ゆーいち , 2008/12/14
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