アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還

2009年2月20日

stars 守る。絶対に、守ります。なぜなら……僕は……。僕は、あなたに言わなきゃならないことがあるんだ。もう一度会えた、その時。だから、今度は、僕が戦います。

いじめられっ子のハルユキは、休み時間にひとり引きこもり、学内ローカルネットに設置されたスカッシュゲームを楽しむことが唯一の逃避だった。ある日、誰も超えることができないと思えた自分のスコアを、あっさり更新した人間が現れる。黒雪姫と賞される、学校一の美少女と出会うことになったハルユキは、彼女から受け取った謎のソフトウェアによって、これまでの日常を破壊される。そして《加速世界》と呼ばれる新たな世界で、ハルユキは姫を守る騎士となり、戦うこととなる。

現実にコンプレックスを持つ少年が、少女との出会いで新しい自分を確立していくお話。電脳世界を舞台に、《加速世界》へと踏み入れることを許された少年少女たちの戦いが描かれます。

続巻前提の展開をしているので、今回のお話的には世界観の紹介だったり、これから盛り上がっていくだろう物語の下準備といった印象ですが、ツボを突いた作りをしてますね。いじめられっ子のネガティブ思考から、大切なひとを守るために戦うことを決意するまでの遠回りながらも必要なステップが熱いですねー。

バトルシーンは特撮風味、個人的には懐かしゲームな『ゼロディバイド』を思い出したりしますが、シンプルな技しか持っていなかったハルユキのデュエルアバターのシルバー・クロウの隠された能力の発現シーンとかもお約束ながら燃える燃える。

そして、《加速世界》の到達点のその先へと至る可能性を持ったハルユキと、その世界の裏切り者として追われ続ける黒雪姫との恋物語も気になるところですね。自分にコンプレックスを持っているがゆえに、彼女の好意を憐れみと取ってしまうハルユキの思考が妙に理解できる自分がアレですが、そんな彼の態度に一喜一憂してる先輩の姿も愛らしい。知らない感情を理解し、伝えあっていく手段が、言葉だけでなく、電脳の直結という妙に艶めかしい方法もあったりするせいか、それに対抗するために短いケーブルを用意したりする先輩、不器用で良いですね!

物語の結末、というか、今回の敵キャラのシアン・パイルとの戦いの顛末は温い印象もありますが、逆に現実世界で向き合わなければならない生の感情と、リアルの生活こそが、痛々しくても逃げられない、もう一つの戦いの始まりでもあるのかもしれませんね。幼なじみの彼女の気持ちも、そこに嫉妬する先輩の気持ちも、十全に理解できてるとは言えないハルユキですが、この三角・四角関係の行方も気になったりしますね。

hReview by ゆーいち , 2009/02/14

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)
川原 礫
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