さあ!! 逃げ惑えっ!! ヴェルンストの雑魚どもっ!! これがラゲーネンの……『鉄球王』エミリーの戦だっ!!
ヴィルヘルミーネ率いる暴竜鉄騎兵を辛くも撤退させたエミリー。しかし、ヴィルヘルミーネはラゲーネン王国最後の砦となる河岸要塞を大兵力でもって包囲し、止めをささんとしていた。窮地に陥った王国を、そして何よりも己の手が届く者たちを二度と喪わないために、エミリーは決戦を決意する。鉄球姫と血風姫、ふたりの戦いの幕が上がる。
[tegaki]鉄球王よ永遠なれっ![/tegaki]
徹頭徹尾が熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜな大戦争な最終巻。窮地に立たされた小国ラゲーネンと、その国を理想のために蹂躙しようとするヴェルンストのヴィルヘルミーネ。圧倒的な戦力差によって傾きつつある戦況を、かつての英雄エミリーと同じ名を持つ鉄球姫が覆すっ!
5巻という物語的には大ボリューム、とまではいかない冊数で展開した物語は、けれどそれをまったく感じさせないくらいの密度の濃さ。1巻で登場した破天荒な性格の戦う姫君、『鉄球姫』エミリーが、喪い、出会い、また喪い、戦って戦って、彼女の望む王の姿へ『鉄球王』へとその在り方を変えていく物語。彼女の挫折と成長、そして彼女の掲げる流された血と喪った命に裏打ちされた理想を叶えるための、エミリーの戦いの物語。運命と、国という実体の見えない何かに翻弄され続けたのは、か弱く戦う力を持たない少女でなく、ひたすら前に進み、自らで戦の最前線に立ち、その手で勝利をたぐり寄せつかみ取る、強く荒々しく、けれど王たる意志と資質を備えるまでに至った傷だらけの少女だったというわけで。
そうしてみると、最終巻、エミリーと共に戦った彼女の大切な人たちが、ことごとく生き抜いたというのも、彼女の意志が実現されつつあるのだということの裏付けに思えてきますね。『盾』の名を継いだグレンも、エミリーに付き従うセリーナも、そして彼らを支え、信じ祈ってきたひとびとも、皆が皆、この戦いを生き抜いたという結果。生温いとかそんな言葉、この戦いの中に入り込む余地があったのか。もちろん、あの激戦を生き残ったのは、エミリーたちの実力が何よりもであり、そこにほんの少しの幸運があったというだけの話でしょうが、それでも、エミリーが宣言したように、誓ったように、彼女が彼女の手の届くひとたちを死なせなかったというのが、これまで奪われ続けてきたエミリーにとっての何よりもの救いになったのではないかと思います。
彼女とともに、厳しい状況に立たされ、手痛く、絶望的な裏切りに晒されながらも、エミリーを守り続けてきたもうひとりの主人公ともいえるグレンの成長ぶりも見事。初登場時の未熟さが何よりも勝っていたかのような頼りない騎士が、ここまでの成長を果たすとは。グレンもまた、自身に誓った想いを、最後の最後まで違えることがなかったのだとエピローグで想像させられましたしね。
そして、そのエピローグが穏やかで平和でなんとも報われる終幕じゃないですか。血みどろの闘争を戦い抜いたからこそ許されるような日常。さりげなくラブコメな要素も見られたりと、番外編があるのならそんなコメディ中心の物語も読んでみたいと思わせるような魅力的なキャラたちによる幕引きでした。
ひたすらに戦場を駆け、戦いの中に生きてきた、エミリーにようやく訪れた平穏。このシーンが描かれた物語の完結を見ることができて、まさに感無量というところですね。新作も楽しみです。
hReview by ゆーいち , 2009/08/23
- 鉄球王エミリー―鉄球姫エミリー〈第5幕〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 八薙 玉造
- 集英社 2009-05
- Amazon | bk1
コメント
コメント一覧 (1件)
更新したよ! : 鉄球王エミリー―鉄球姫エミリー〈第5幕〉 https://www.u-1.net/2009/08/23/1928/