迷い猫オーバーラン!〈6〉拾った後はどうするの?

2013年4月18日

stars 細かいことはいいけどさ、人生はマンガとは違うからね。いつまでもみんな仲良しでしたじゃあ終われない。結局そこに行き着くわけだよ。それで、巧くんは誰を選ぶの?

卒業を迎えたメンバー、夏帆や珠緒らと最後の活動である卒業旅行を計画する迷い猫同好会。しかし、その計画の裏には、夏帆の策謀が張り巡らされていた。巧を巡る協定に縛られ、お互いに牽制しあう文乃たち。夏帆の狙いに唯一気づくことができた文乃は、しかし、普段の言動が仇となり夏帆を告発する言葉を、誰にも信じてもらえなくて……。

[tegaki]男・巧、選択のとき![/tegaki]

再登場し、不穏な空気を漂わせまくった夏帆さん。彼女の、巧を我がものにしようとする行動の真意が明かされ、彼女の行動が、匠海を想う少女たちに――特に文乃に、大きな揺らぎを与えていきます。

この作品、登場人物たちは基本的に善人ばかりなんですが、夏帆という少女に関していえば、この巻の最後の最後で救いがもたらされるまで、周りの人間にとってははた迷惑な存在でしかなかったですね。ああ、いや、はた迷惑でいえば、程度の違いはあれどこそ、文乃も、千世も、希も、果ては乙女姉さんだって、巧にとってはある意味で誰も彼もが彼を翻弄する嵐のような存在ではありますが。けれど、彼女たちと決定的に夏帆が違ったのは、彼女が行動するのは彼女が彼女であるための最善手を指すためであるという一点だったのかなあ。自分にないものを得るために、自分がより主人公らしく振る舞えるようになるために、という行動が、今回のこれまでにない、気持ちを試されるような事件の引き金だったわけで。

その意味も分からず、自分以外のみんなが持っているからこそ、欲しがった友達という存在。策を弄し、心を利用し、自らの力でひとびとを操ることでそれを得ようとした夏帆が、結局はそれでは手に入れることはできず、けれど彼女のそんな見当違いな暗躍とは関係なしに半ば押しつけられるようにして結ばれた友達という絆。他者と対等の関係に立つという当たり前のことをようやくできるようになった彼女も、ストレイキャッツという空間に迷い込んで、居場所を得ることができた迷い猫のひとりだったということが、ようやく実感できたお話でしたね。

一方、夏帆に翻弄され、文乃たち同好会の女の子たちから寄せられる気持ちから目を背けていた巧も、ここにきていよいよ避けようのない選択肢を突きつけられることになりましたね。好きという気持ちを家族のそれと思い込もうとして、関係を崩すのを恐れて、恋愛感情を抱くことに恐れすら覚えていたようなヘタれさも、委員長の叱咤激励で目が覚めたのか。ここではっきりと答えを出す宣言をした巧に、今まで見えていなかったゴールがおぼろげながら見えてきた感じでしょうか。誰を選ぶにせよ――順当にいけば文乃が選ばれることは間違いないように思いますが――巧のほうから告白し、決着をつけると言ってくれたことで、この擬似的な家族関係も、また少し変化していくのでしょうか。

これまで自分の本音と正反対のことを言い続けてきたおかげで、痛い目に遭ってしまった文乃も、これで少しは素直になれるのかな? 端から見れば、彼女の巧への気持ちは隠しようがないし、心の中でどれだけ彼を頼りにしているのか丸わかりなわけで。1巻で自分の気持ちを告白してしまった文乃を、待たせまくっている巧の返事が、もしかしたらそう遠くない頃に聞けるかもしれない。そんな期待を抱きながら見せる、文乃の意地っ張りな態度も裏返しの言葉も、可愛く思えてきますね。

hReview by ゆーいち , 2009/09/06