D-breaker

2010年4月8日

stars ノエル一人を犠牲にしてしか因果律を保てないというのなら、そんなもんはぶっ壊れてしまえばいい! とにかく僕は気に入らない。ノエルを助けます。助けないと! それが調律士としての僕の初任務だ!!

“歪曲”とは世界の事象を悪意的に改ざんすること。歪曲に対抗する組織『重層世界調律機関』に所属する高校生の優馬は、歪曲師イーサン・ソルトウォーターの追跡を命じられる。任務の途中、優馬は銃身のない拳銃をかまえた銀髪の少女ノエルに狙われた。九九九人の絶望と引き換えに願いを叶える“混沌の柩”を巡り、異能者たちが激突する。無理やり片手袋(パートナー)となってしまった優馬とノエルの運命もまた交錯し…。「覚悟はあるか」「でも、僕は、助けたい」「牙を剥け」―。左手に魔剣“鮮血の深紅”を帯びる『調律士』見習い優馬と、龍騎士ノエルのガン&ソードアクション。

これはまた前シリーズの『ナインの契約書』とはずいぶんと路線が変わって、正当な感じの異能バトルものになってきましたね。個人的には、前作の割と救いのないダークな雰囲気が好きだったのですが、本作でもその辺は引き継ぎつつ、アクション、バトルへの比重が増していて、独特の雰囲気の作品に仕上がっているような感じ。世界観や、作中で使われる魔法の設定などがなんとなく『円環少女』を思い起こさせますが、逆にあそこまでハードに徹しているわけでもなく、取っつきやすい部分もあるのではないかなと。

世界の在り方を悪意で歪めようとする歪曲師と、それに対抗しようとする調律士の対立構造。ひとの目に触れることなく、けれど確実に存在するその超常現象に相対する主人公、優馬は見習いの調律士。彼の住まう街に訪れた強大な力を持つ歪曲師・イーサンとそれを追って現れた調律士・ノエルの戦いに、優馬もまた乃ルのパートナーとして否応なく巻き込まれていって。

出会ったばかりの優馬に対して尊大に接するエリート調律士ノエルに振り回される優馬のヘタれっぷりが哀れみを誘う序盤はともかく、ノエルの抱えている何かが、どうにも簡単なものではなさそうだと気づかされ、敵対するイーサンの力に圧倒される中盤以降は一気にヘヴィーな展開になっていきますね。当初の説明では調律士=善、歪曲師=悪の対立構造と思わせておいて、その実蓋を開けてみれば、優馬にとっては自身が属している、いずれなるであろう調律士の組織の文字通りの歪みに晒されていくのは皮肉でもありますね。

ノエル自身の決死の覚悟と、その背景にある彼女の事情は、本編では完全に明かされることはなかったのですが、所々で描写される彼女の過去の様子や、敵であるはずのイーサンの言葉、そしてそれを購うための代償の大きさからすると、決して許されることのない大きな罪であろうと予想できますね。贖罪のために自分の命を賭し、それでも届かない無駄死に一歩手前の窮地に駆けつけた優馬が彼女にぶつけた生きるということへの意志は、頑なだった彼女の心に届いたのかどうか。戦いの後の彼女の態度を見る限り、少しは軟化したように見えますが、その性格は簡単には直らなそうだなあ……。

主人公の優馬にしても、自分が手にしている力の本質を掴み切れていないのかな。戦いの最終局面で、その窮地をひっくり返すことに成功した、彼の超絶的な力は、いったい何によって与えられたものなのか。優馬の上司であり、師でもある鬼束さんが大きく関わってきてそうだけれど、それが明かされるのはこれからになるようですね。

ラストはお約束ながらも、分かれてしまったふたりの再開で、再びスタートする新しい物語の予感。入居者のほとんどいないぼろアパートも一気に賑やかに華やかに、そんなふうになっていきそうな感じですね。今巻では戦いばかりで優馬とノエルの間の気持ちが、余り深くまで描かれていなかった感じもするので、その辺の掘り下げが次巻以降されることを期待したいですね。

hReview by ゆーいち , 2010/04/04

D-breaker

D-breaker (MF文庫J に 2-4)
二階堂 紘嗣
メディアファクトリー 2009-12-22