Kaguya〈5〉月のウサギの銀の箱舟

stars 大丈夫。だって、そうだろ? こうやって、一緒にいられることがうれしいって思える気持ちは、作り物なんかじゃないんだから。

ひなたやゆうひとともに『銀の箱舟』に身を寄せる宗太。そこで宗太は、7人目のかぐや姫アリサに出会う。そしてアリサやムーンチャイルドたちと触れあううち、宗太は月乃宮へと戻る決意を固めていく。
その頃月乃宮では、アリサの能力により異常気象が起こっていた。『銀の箱舟』に立ち向かうつばめ・黒田・京を救うため、宗太たちは月乃宮高校へ向かうことに。杏奈までをも巻き込んだ戦いが激化する中、8月の満月と同じく、月がひなたたちを襲う。そして、とうとうひなたが月に連れ去られてしまい―!?
宗太とひなたの物語はついにクライマックスへ向かう。

月とかぐや姫の物語、完結。

大人の事情が働いたらしく、駆け足気味に進行するストーリーは、まさに怒濤の展開。二転三転しつつ、激しく動いたのとは逆に、結末は非情に静かで、寂しげ。本来だったら、前巻のラストで銀の箱舟に身を寄せた宗太たちと、そこで出会ったひとたちとの交流、ひなたの記憶の喪失までを1巻使って描いて、もう1冊で真相の明かしと杏奈との決着という風に構成したのかなあとか邪推してみたり。

それでも、この物語に託された子供たちの優しさ、そして望まないのに大人になることを強いられてしまった少女の嘆き。そんな相反する想いの狭間で翻弄され、苦悩し、傷つき、大切なものを失い、そして、大切なものを得て、自分たちの願いのために答えを出すことを選んだ宗太とひなた。ふたりの子供として物語の幕を引く役目を担ったゆうひにしても、誰かに優しくしたいと強く思った、その気持ちが、この結末へと導いたのでしょうか。

過ちを知りながら、生き方を変えることはできず、永遠に囚われ、真実を隠すという、ただそのためだけの存在と成り果ててしまった杏奈。逆に、残酷なまでの、アルテミスコードと人間との関係の真実を知りながらも、自分たちの気持ちの結晶であるゆうひの存在を否定することなく、世界にあらがい続けた宗太たち。結局、両者の溝は最後まで埋まることはなく、お互いが手を取り合う未来を得ることはできませんでしたが、それでも、最後の瞬間に、届いた言葉、そこに託された想いを受け取ったからこそ、エピローグで寄り添う宗太たちの姿があるのでしょう。

共に過ごした時間は、長いようで短く、そして一緒に過ごしたひとたちとも遠く離れ、ただ二人で生きている宗太とひなた。願わくは、優しくなりたいと切に祈った彼らが、その思いが報われる優しい世界で未来を歩めることを。そして、幸せな世界で、暖かに寄り添う親子の姿が見られることを。天と地、地球と月、遠く遠く離れてしまった両者だけれど、お互いが寄り添うように未来にあり続けることは、間違いないのですから。

hReview by ゆーいち , 2010/04/20

Kaguya〈5〉月のウサギの銀の箱舟

Kaguya〈5〉月のウサギの銀の箱舟 (電撃文庫)
鴨志田 一
アスキーメディアワークス 2009-09-10