俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈6〉

2010年5月19日

stars あいつは俺にとって、いつまで経っても、きっと何十年経ったって――腕の中で泣いている、小さな生き物のままなのだ。いつか、今度こそ、俺と離れるそのときまで、我儘を聞いてやって、しっかり護ってやらなきゃならない。

ヤバイ。桐乃ヤバイ。俺の妹マジヤバイ。
まず偉そう。もう傲岸不遜なんてもんじゃない。超居丈高。
「オマエ何様」って妹にきくと、「チッ」って舌打ちするだけじゃなく、その後腕組んで「うざい」って睨みかえしてくる。
スゲェ! なんか遠慮とか無いの。妹なんだから兄貴のことを敬って、もっと仲良くしなきゃいけないんじゃ──と思っていた時期が俺にもありました。
っていうくらいの勝手気儘ぶり。普通は人間なんだから絶対謙遜とかもする。でも俺の妹は全然平気。凄い。ヤバイ。どれくらい凄いかというと、なんかこの宣伝文、どこかで同じようなのを見たはずなのにそれすら気にしない豪快さ。さすが俺の妹だ、なんともないぜ。
とにかくお前ら、ウチにいる妹のヤバさをもっと知るべきだと思います。そんなヤバイ桐乃と一緒にいる俺、超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="Gold"]うちの兄がちっとも自重してくれません![/tegaki]

桐乃をアメリカの留学先から連れ戻し、友人たちとの感動の再会を終えて帰ってきた日常。帰国後、仕切り直しになったかのような第6巻ですが、初の『人生相談』を受けてから1年、兄である京介の周囲の状況は変わり、そして、京介自身もずいぶんと変わってきていますね。

……というか、京介、お前はそろそろ自分の頭の中でめくるめく繰り広げられるえろげ的思考を判断の拠り所にするのは危険だと気づくべきではなかろうか。何、このえろげ脳? 桐乃好き好き大好きちょー愛してるなあやせよりも、腐女子パゥワァ全開で兄×親友のカップリング妄想を繰り広げる瀬菜とかよりも、私は、京介、君の脳内が心配です。

嫌々始めた桐乃の趣味と、彼女の友人たちとの付き合いも、もはや彼の生活を構成する一部分、まさに血となり肉となり、魂にまで刻み込まれてしまったかのように思いますよ。いや、それくらい、そこかしこの地の文にえろげ的テキストをちりばめられてしまったら、この作品がいったい何なのか疑ってしまいますよ、ええ。いや、ここ数巻は、彼の脳内妄想っぷりは大したものでしたが、さすがにそろそろ自重しないと、対外的・社会的に自身の立場が危うくなって来はしないものかと……。いや、もう遅いか……。

さて、そんな『俺妹』セカンドシーズン(?)の開幕ですが、やってることは短編集のノリですね。桐乃の留学から帰国までの間に撒かれていた種が芽吹いて、それを刈るお話とでも言えましょうか。彼女が日本を離れていた間に生まれた関係が、桐乃が帰国してきたあとにどんな騒動を生むのか、そんなノリであります。

いや、まぁ、前巻での黒猫との親密なシーンをこれでもかと描写していて、妹が帰国してきたらはいそれまでよって風にはなかなか行きませんわね。これまでは割と桐乃が黒猫の方を煽っているようなシーンが印象に残っていましたが、今回はそのお返しとばかりに、兄を奪おうとする泥棒猫的な意地悪を仕掛け、これまたそれを真に受けてブチ切れる桐乃がかわいかったりします。この展開、2chで予想されていたのを見かけたけれど、まさか本当に拝めることになるとは。にやにやがとまりません! ていうか、男のベッドに当たり前のように横になる女の子っていうのは、妹の視点から見ても、友人の視点から見ても、怒るのは当然だとも思います。二重の意味で取られることになっちゃいますもんねー。まぁ、そんな仲良くけんかしな、なふたりは、こうあってこその桐乃と黒猫なんだろうという、「ようやく帰ってきた」感のある、日常の風景でしたね。ただ、そのけんかの原因が作品への愛ではなく、京介にありそうだっていうところが、依然と今とできっと変わったことなんでしょうね。

そして、次では謎に包まれていた沙織の正体に驚愕のお話。ネット弁慶というか、キャラを見事に使い分けているというか、おいお前それは本当に本人なのか、と言わんばかりの性格の違いっぷりを見せつける沙織の真の姿かついに明らかに! これまでほのめかされていた要素から想像したのとはちょっと違った真相ではありましたが、やっぱり彼女は友人たちのなかでもいちばん必死に、その空間を守ろうとしていたんだなあという気がしました。今回のお話では、その気持ちと、それゆえの危機感があだとなって、逆に後手後手に回って嬉しい不意打ちを食らわされてしまいましたが、だからこそ、ようやくこのエピソードを経て、沙織、桐乃、黒猫、そして京介の間にあった距離がいっきに縮まったんじゃないかと思えるんですね。個人的には、素の沙織さんのお話とかも見てみたいけれど、盛り上がらなそうだなあ。いや、京介はかなり本気で彼女を気に入っているから、そういう方面での番外編は見てみたいかも。しかし、京介、お前はあやせが一番好きと良いながら、沙織の正体を見てしまったらそっちもかなり気に入っているな。というか、大人びた女性が好きなら、彼女こそがドストライクなんじゃあ……? なんだか沙織自身の出番が減りそうなことが、作中の台詞で語られてるけど、それも彼女の杞憂であったらいいなあ。前巻の黒猫に次いで、今巻では沙織と、これまで見せられていた側面とは別の顔を見せられるとやっぱり魅力的に感じちゃいますね。

最後は桐乃がアメリカに残してきた心残りとの決着。彼女をして勝てないと言わしめた少女、リアの来日と、そこから始まるドタバタの1日。何もかも、好きなものは全部楽しみたいと思っている桐乃と、ただ走ること、それだけを楽しいと思っているリア。陸上というフィールドにおいて、どちらに理があるのか、どちらが強いのかというのは自明ではありますが、けれど、その道理を覆す何かが、かつてリアに一度だけ勝つことができた桐乃にはあった。それがいったい何なのかは、非常に桐乃らしい理由でしたね。けれど、それを、何もかもを捨てて、たったひとつに打ち込むというアスリートとしての正道に対しての逃げ口上にせず、そうある自分だからこそ強いと、自分のスタイルを捨てることなく、桐乃として戦っていくことを決然と言い張る少女の姿は、兄の目から見ても誇らしく映ったんじゃないでしょうかね。自分のシスコンを棚に上げて、ひとりの人間として尊敬してしまいそうな、そんな勢いですよもう。

ここまで来ても、京介の桐乃を思う気持ちは、やっぱり兄が妹を大切にしようとする気持ちからだと、自分では思っているのですよね。けれど、逆に桐乃の方は表面上は京介に対する態度は大きく変えていないまでも、その内面は、おそらく兄なくしては立ちゆかなくなるくらいに依存してしまっているんじゃないかと感じてしてしまいます。京介と、他の子の距離感に敏感に反応してみたり、『人生相談』終了しても何かにつけてお願いしてきたりと、兄が思っている以上に、きょうだいの距離はぐんと縮まっているのですよ。

その何よりの証が、またしても物語の最後で投下された桐乃からの爆弾発言なんですが……。果たしてその本当の意味はいったいどんなものなんでしょうか。持ち上げて思いっきり落とす展開が普通に来そうですが、表紙にあるような微妙な距離を絶妙に描いてくれる恋愛方面のお話、期待しています。

hReview by ゆーいち , 2010/05/09

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 6

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 6 (電撃文庫 ふ 8-11)
伏見つかさ
アスキー・メディアワークス 2010-05-10