灼眼のシャナ〈21〉

stars この世って……『世界』って、色んな人の思いを絡めて、成り立ってるんだね。

今、そこは間違いなく、世界の中心だった。
御崎市全域を覆う巨大な封絶。中天に輪を描く、創造神の黒い蛇身。その背に降り立った、緋色の凱甲と黒い竜尾で装う少年──創造神“祭礼の蛇”の代行体・坂井悠二。
彼は、正面で向き合う少女に笑いかけた。紅蓮の瞳と髪を靡かせる、天罰神の契約者たるフレイムヘイズに。
「悠二」
「シャナ」
二人は、それだけを言い、それだけを返す。フレイムヘイズ兵団は敗れ、“紅世の徒”らが勝利し、彼らの楽園『無何有鏡』の創造が始まろうとする中、相容れない二人は、互いのかける、次の言葉を待っていた。
少女の手には、身の丈ほどもある大太刀が握られ、少年の手には、片手持ちで幅広の大剣が握られる。
図らず、計らず、声が重なる。
「「──決着を──」」

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″]最終章、開幕!![/tegaki]

フレイムヘイズの敗退と、ついに降臨を果たした創造神率いる“徒”の軍勢。パワーバランスは崩れ、楽園の創世に向けて勢いを増す“徒”たちを押しとどめることさえできずに、手をこまねき続けるフレイムヘイズたちの中で、それでも戦う意志を決して失くさないシャナたち。世界の趨勢を決めることとなる最後の戦いは、けれど彼女にとっては、たった一人の思い人・悠二とのすべてをかけた戦いへと収束して行きます。

いやぁ、これまでの大軍勢対大軍勢のこれまでにない規模の戦いは、誰もが主人公といいながらも、やはり物語の中心となるシャナたちの出番が、その分削られてしまっていたためか、どうにも燃え切れない部分があったのですが、今回はそれを補うばかりの大活劇。物語が複雑・混迷の度合いを深めていってそういった痛快な展開が減っていったのが残念だっただけに、シリーズ初期を思わせるようなシャナの大立ち回りが気持ちいいですね。
もちろん、他のキャラたちも、これが最後の見せ場とばかりに獅子奮迅の大活躍。ここにきてようやく姿を見せた四神の残された三神や、苦難をともにしてきたヴィルヘルミナ、そして出番は次巻へ持ち越し? なマージョリーもこれまでとは違った意志を見せ活躍を予感させてくれますね。

そして、世界の在り様を根本から変えてしまう、創造神がつくろうとする楽園『無何有鏡』が、結局のところ救いとなるか破滅の始まりとなるのかは、まだ分からないまま。けれど、近い未来と遠い未来の危機を考えて、自縄自縛状態に陥るフレイムヘイズと外界宿の重鎮たちに比べて、自分の意志を信じることを理由とするシャナたちの身軽なこと身軽なこと。これまでさんざん、悩み抜いた末の答えは、自らの戦いの先に用意されていると確信しているかのような吹っ切れっぷりですね。それは、敵対してしまった悠二の方も同様に、自身の『正義』がきっと相手のためになると信じるがゆえの前進であり、勝者こそが世界の道行きを選択できるのだという、なんともシンプルなルールへと遠回りの末にたどり着いた気がしますね。

舞台は物語の始まりとなった御崎市。これまでに築いてきた思い出を背景に、命のやりとりというよりも、かつて繰り返した手合わせを思い起こさせるようなふたりの激突。世界そのものを背負って戦うふたりだけれど、ひさびさに見ることができた感情を爆発させる少女としてのシャナと、その気持ちに振り回されるかのような少年としての悠二の姿がそこにはあって、大きな使命と運命に組み込まれてしまった彼らの、彼らなりの決着のための戦いであるということがよく分かりますね。まぁ、この上ない緊張感に包まれているはずの大決戦のさなかに、痴話げんかよろしく「バカーーーー!」とか全力で叫ぶシャナの姿こそが、この物語によって大きく変わって、成長してきた彼女の集大成のような気がしました。

人ではない者たちの戦いの中で、たったひとり間近にあることを許されたのは吉田さん。すでに物語の中心からははじかれてしまっていたかと思いきや、最後の最後で文字通りの最後の鍵となり、閉ざされた箱を開く決意を固めます。シャナと悠二というかけがえのない友人たちのために、恋に破れた身ながらも、ふたりの未来を輝かしいものにするために下した決断。悲壮なまでの覚悟でもって、本来なら起こるはずもなかった奇跡を起こした彼女の願いは、果たしてぶつかり合うことしか選択できなかったふたりの友人たちに別の未来をプレゼントすることができるのでしょうか。いや、それを実現してくれなければ、いろいろと救われないので、そう信じたいところですが。

物語に欠けていた最後のピースがかちりとはまった終章前編。泣いても笑っても次巻でこの長い物語に決着です。この手のお話だと、一人また一人と敵も味方も倒れていく壮絶な展開が予想されて非常にきついのですが、幸福を手にするために戦っている誰も彼もが報われる、大団円をこの大活劇の最後にぜひとも見せてほしいと思います。

hReview by ゆーいち , 2010/11/07

灼眼のシャナ〈21〉

灼眼のシャナ〈21〉
高橋弥七郎 , いとうのいぢ
アスキー・メディアワークス 2010-11-10