なれる!SE 4 誰でもできる? プロジェクト管理

2012年1月19日

stars ……無能と罵られるのは構いません。無力さを指摘されるのも仕方ないです。実際今の僕は何も結果を出せていませんから。でも。無策と思われるのだけは御免です。どんなに無様でも不格好でも最後まであがいてゴールに近づきたいです。それが僕の……僕なりの意地です。

とある出版社の本社移転プロジェクトに参画することになった立華と工兵。とはいえ請け負ったのは一部ルーターの移設作業だけ……だったはずが、あまりの惨憺たる状況にプロジェクトマネージャーが逃亡。六本松のいつもの暴走により、その役割が工兵に無茶振りされることになる。
新人にはハードルの高すぎる未経験の業務を前に途方に暮れる工兵。期限は容赦なく迫り、ベンダー各社はごねまくる。工兵ははたしてPM業務を完遂できるのか!? そして立華のプライベートの一端も明らかに?
話題の萌えるSE残酷物語、第4弾!

[tegaki]無理ゲーにもほどがある!?[/tegaki]

提案の次はプロジェクト管理ですか。なんだか工兵の前に次々と立ちはだかる無理難題の前に、彼のHPとYP(やる気ポイント)はすでにゼロよ! と叫びたくなるくらいの惨状がまた繰り広げられるのですね。

突然仕事を放棄して逃げ出す前任PM。取引先の目の前で堂々と安請け合いしてPM業を引き継ぐ社長。まったく経験の無いぺーぺーの新米PMを前に好き勝手言い出すベンダーたち。ああああああ、これは工兵でないくても普通に発狂しますわ!!! いやああぁ! 想像するだけでも心が折れてしまいそう。なんという針の筵!?

今回の案件は非常にヘヴィですね。工兵の心がへし折れそうになるシーンがそこかしこにあって、読んでてこちらまで胃が締め付けられるような思いに囚われます。今までは不平不満を口にしながらもどこかしかにやりがいを感じて突破口を開いてきた工兵ですが、今回相手にするのは、機械ではなく人間であるというのが勝手が狂ってしまった原因なんでしょうね。そりゃあ、自分の身の周りにいる人間が、室見さんとか梢さんのような規格外な実力者だったりしたら、自分の言葉が多少足らなくてもそれを補ってあまりある成果を出してくれるのは今までの通り。

けれど、今回、工兵に課せられたPMという役職は上から指示を下すだけではどうにもならないのだということがよく分かるお話ですね。生身の人間相手だからこそ、必勝法などないという、経験がものをいうきびしい仕事なのだという。それは、室見さんの手から託された虎の巻にも書かれているように、自分と向き合う人間がどんなタイプなのかを見抜く力が求められ、そしてコミュニケーションを取っていくことが求められる仕事なのだということ。それが分かるまでの苦悩と、そのヒントを得てからの工兵の開き直りっぷりの落差には笑えばいいのか驚けばいいのか。

工兵のこれまで身につけてきたスキルと、今まで培われてきた素質がいかんなく発揮される終盤は、やはり鬱憤を晴らすかのような怒濤の展開。誰かをやり込める痛快感とか、目的達成の爽快感とはまた違った、パートナーたちとようやく歯車がかみ合い動き始めた安堵感と信頼が築けたことによる安心感にほっとしました。今回のキーパーソンとなる薬院さんを巻き込む手管もそうだけれど、前巻で登場した橋本課長とのパイプも健在だったりと、巻を追うごとに工兵の女性関係が充実していくのはフィクションだからですよね、フィクションだからですよね? チクショウ爆発しろ!!

……と、そうやって繋がりが増えていくことで、工兵の手元の切れるカードも増えていくという好循環。あるいは、どんどんハードな案件をよこされるという悪循環? なんだかんだで自分の仕事に誇りを持ち、捨て鉢にならず、最後までやり遂げる結果を出せる彼は、SEという仕事に毒されつつあるのかもしれないですね。本人は否定したがるでしょうけど。

でも、やっぱり、この作品のスルガシステムという会社はブラックだけれど、そこで働く人たちはどこか充実した姿を見せてくれるのが不思議ですよね。ひさびさに姿を見せてくれた藤崎さんとか一言二言言葉をくれるだけなのに、その一言がどうしても印象に残ってしまいます。工兵の「プロジェクト管理とは?」と言う問いに即答でそう言える彼みたいな人は死なせるには惜しいんですよ!(死んでません)

現実はこう上手くいくケースばかりでないのは百も承知ですが、この何ともいえない読後感は本作ならではの魅力ですよね。

少しだけ語られた室見さんの今と過去も気になります。工兵を育て上げる中で、彼女のことももっと語られていくことに期待です。

hReview by ゆーいち , 2012/01/18

なれる!SE 4 誰でもできる?プロジェクト管理

なれる!SE 4 誰でもできる?プロジェクト管理 (電撃文庫 な)
夏海 公司 Ixy
アスキーメディアワークス 2011-05-10