そうですね。『運命の歯車』――という言葉はご存知で? 歯車だけで作られているこの世界――。その歯車もまた存在しているのではないかと思いますよ。わたしの機構に何の偶然的要素も存在しないように。全ては、必然的にかくあるべくしてそうある――と。
死んだ地球のすべてが、時計仕掛けで再現・再構築された世界――“
「あんな故障一つで二百年も機能停止を強いられるとは。人類の知能は未だノミの水準さえ超えられずにいるのでしょうか――?」
破滅と延命の繰り返し。作り替えられた世界と、変われない人類。理想と現実が悲鳴をあげる時、二つの出逢いが運命の歯車を回す!
榎宮祐×暇奈椿×茨乃が共に紡ぐオーバーホール・ファンタジー!
いやー、これはちょー面白かったですよ。ラノベ文庫って割と地方では揃えてる書店ないんですが発売日に買えて大勝利! ノーゲーム・ノーライフで榎宮さんの作品初体験で非常にツボでしたが共著になる本作も、私の琴線揺さぶりまくり。みんな読むといいよ!
もうね、冒頭からして世界終わってるし! けれど、なぜかオール歯車で世界を再構築して1000年経ってるし! こういううさんくさくて、けれど厨二ゴコロをくすぐるような設定美味しすぎます。こまけぇこたぁいいんだよ! と理論的な解説を放棄しつつも、この世界をあるがままに読ませるだけの勢いと熱さが物語に宿っています。
冒頭でいきなり大都市の基盤となる機構を掌握。大多数の人命を危機にさらすテロ行為から始まる物語。主人公たちがいったいどんな目的を持って、そんな行動に出るのか、1とナンバリングされた本作は、その始まりを描いています。
物語の構成としてそんな奇抜なモノがあるわけではありませんね。主人公・ナオトの家をぶち抜いて落下してきたコンテナの中身は絶世で至高、そう表現しても差し支えのないほどの完璧な自動人形リューズ。動かないままだった彼女を修理し、起動させたことから彼の運命は大きく狂う……あるいは正しい方向へと動き出す。一方で、時計仕掛けで再現された地球をメンテ・維持する役を担う、最上級の時計技師・マリーは京都の町に住まう2000万の人命が、都市機能の崩壊によって数十時間内に失われることを突き止め何とかしようと奔走する。そんな二人の運命が交わり、物語は一気に加速し、結末へと向かっていきます。
決して交わらないと思われていた二人の運命が、リューズという存在を交点として交差する。そして、お互いがお互いの欠けた部分を補うように、あるいは神の所行とも思われるような、「世界を歯車で再現する」なんて奇跡の業を体現していく。
そこに至るまで、さんざんナオトのチート過ぎる能力を描写し、トンデモなオンリーワンを強調しておきながら、もう一人の主人公ともいえるマリーをただの噛ませ犬にしない扱いは嬉しいですね。いや、さんざんリューズの毒舌に撃たれまくってヒロインの扱いじゃないだろとか感じたりもしますが、これはあれだ、暴力系ヒロインにサンドバッグにされる主人公的な扱いで、彼女もまた実は主人公という意味だったんだよ! ナ、ナンダッテー!ΩΩΩ
いや、それはそれとして、ノーゲーム・ノーライフでも感じましたが、スケールのでかい異能をこれでもかと見せてくれる描写の手管が素晴らしいですね。この作品の場合は数字の桁が大変な事になったりしてますが、兆を超え、京の位にまで達しようかという機構の全容を聴覚で把握する主人公、マジぱねえっす! 技術とか超聴覚だとかそんなちゃちなものじゃ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わわされます。いや、これ作中でその能力を目の当たりにした一流の技術者たちこそ信じられない思いだろうなあ。一流、超一流と呼ばれる域に達しても一人では決して手の出せないような、世界そのものともいえる仕組みをたった一人で手も触れずに把握するなんて、その技能だけゲージ振り切って人外の域に達してますわ、この主人公。
そして、そんな異能の持ち主が手にした自動人形・リューズもまた規格外の存在というのはある意味お約束で様式美ですよね。自分をただ一人修理できた存在・ナオトを主として規定し、そのすべてをかけて尽くすことを自らに課すリューズ。献身的で超絶的な美少女に傅かれたらそれこそ人生大勝利ですが、このリューズの口の悪さがまた突き抜けてひどい(笑) 楚々としたたたずまいなくせに、その口からはマシンガンの如く心を抉るような言葉の弾丸の一斉掃射。主であるナオトでさえも、尊敬されてるのかけなされてるのか分からなくなるような扱いを受け、けれど、ナオト以外の人間にはさらに苛烈な言葉を浴びせているだけ、やはり主人公は特別なんだなとか思ったり。いやあ、ポジションとしては、はやりリューズが正ヒロインになるんでしょうけれど、こういう超毒舌系のロボ娘は良いですね! 主人の命令には基本的に逆らえず、言葉を発することを禁じられ毒舌を封じられた後の、彼女の本心を問い詰めるシーンはにやにやにやにや大変です。255回こくこくさせてえ!(笑) ツンとしているくせに、ナオトへの好意は隠せてないなんて、完璧な造形であるはずの少女から感じるその不器用さがまた可愛く思えてしまいますね。遙か昔に世界を作り替えた人物「Y」の手によって作られた彼女が、ナオトと巡り会ったというのも、この物語が始まる必然の元だという、彼女の確信に同意したいところですね。
それにしても、世界が死に、今は辛うじてぎりぎりの延命処置をしているような状態なのに、人類のお偉方たちはその在り方がまったく変わっていないんですね。そういう意味では、致命的な事件から1000年、現在よりはるか遠未来を舞台にしているのに、文化的に現代とほぼ変わらないとか、そういう部分を突っ込むとアラが見えてくるのはありますが、分かりやすい敵を設定し、それに対して主人公たちが反撃していくという終盤からエンディングへの展開は非常に素晴らしいです。主人公たちのトンデモさをこれでもかと発揮し、奇跡的な結末を手にする。こういう気持ちいい展開は本当に大好きです。その果てに腐った組織と世界に嫌気が差して、なってしまったのがテロリストというのが、マリーの思考の過激な所でもありますが、それでもその思いの気高さは確かに感じられる流れなんですよねえ……性格はどんどんアレになっていってますが。
彼らがそうなるまでの顛末を描いた導入部となり、物語はこれから始まるのだというのに、この熱さ。いやいや、これは先が楽しみな作品ですよ。あからさまに続巻を想定して張られている伏線――とんでもない人物であるようなマリーの姉や、リューズ以降に建造された後継機にあたる「妹」たちの存在――も先の展開をいろいろ妄想させてくれてワクワクします。死にかけの世界を救うのか、それとも生き返らせるのか、かつてたった一人だけがたどり着けた地平を見据え、その先へと至ろうとするナオトやマリーの活躍が、非常に楽しみです。
hReview by ゆーいち , 2013/04/02
- クロックワーク・プラネット1 (講談社ラノベ文庫)
- 榎宮 祐 暇奈 椿 茨乃
- 講談社 2013-04-02
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