ねぇねぇ、ちょっと死んでみましょうよぉ。そうしたらわたしが永遠にお側にいますから♪
片田舎のローカル線・志ノ崎電鉄を深夜に走るという噂の幽霊列車。その存在を確かめるべく、幼なじみの少女・綾芽に引っ張られて深夜の無人駅にやってきた匠海は、そこで本当の幽霊列車に遭遇してしまう。普通なら生きている人間には見えないはずの幽霊列車とその乗客たち。匠海はそこでドジな車掌・紗月と出会い、彼女の手伝いをすることになる。彼岸と此岸を結ぶという幽霊列車、その手伝いの報酬として匠海が望んだことは……。
噂の真相を確かめるべく訪れた深夜の無人駅で、本当にこの世の者ならざる幽霊たちが、彼岸と此岸を行き来するために乗り込む幽霊列車を見つけ、そして、それを運行する少女と出会い、変わっていく物語。
主人公・匠海が抱える過去の心残りは、本来なら決して精算することなどできないことだったはずなのに、幽霊列車の車掌・紗月との出会いを契機に、それが叶えられるかもしれないとしたら……。
叶うことのない望みを抱えているという意味では、すでに死んでしまっている紗月も同様で、それが一時でも叶うのならという彼女の空元気にも似たはしゃぎっぷりと、そして相反する厳格な役割という両極端な側面はなかなかに魅力的。元気でドジっ子という紗月のキャラ付けは見ていて微笑ましくなるのですが、そこに救いがあるのかというと微妙な感じになってしまいますね。いや、作中では、そんな雰囲気はあまりないですし、物語の締め自体も非常に前向きなものなので、ネガティブに捉えすぎなのかもしれないですけれど。
そんな住む世界の違うふたりの出会いは、匠海の一番近くにいた綾芽にも少なからず影響を与えていて。彼女の気持ちだとか、匠海を引っ張り回す動機だとか、分かりやすすぎるくらいにストレートなのに、匠海が気付いてやれないというのが不憫で不憫で。こういう鈍感スキルを発動する主人公もまた、典型的ではありますね。
匠海自身が、自分の善意から生んでしまった溝は、綾芽にとっては余計なお世話と優しい拒絶で、それを埋めるためのきっかけとして、幽霊列車という存在が生きてきてますね。それは失くしてしまった楽しかった日常をわずかでも取り戻すための奇跡でもあり、目を逸らし続けてきた自分の気持ちに気付くための試練でもあって。それを乗り越えて至る結末は優しい感じに満ちてましたね。
エピローグはこれからも続いていくにぎやかな毎日を予感させてくれます。生者と死者という決して交わることのない両者だけれど、同じ時間を共有して、同じ気持ちで笑い合うこともできる、気持ちのいいラストでした。
……でも、これ、ある意味泥沼な三角関係になっただけなんじゃあ? だが、それもまた良しッ!
hReview by ゆーいち , 2009/03/13
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コメント
コメント一覧 (1件)
匠海と望兄入れ替わったままのほうが… ぃゃただの紗月派です。