“文学少女”見習いの、初戀。

2013年4月18日

stars わたしはハッピーエンドを信じてる。運命がどんなに苦難を用意しても、あきらめずに乗り越えて、二人はいつまでも幸せに暮らしました――そんな風に終わる物語もあるって。

学園に新入生として入学した日阪菜乃は、文芸部部長・井上心葉と出会う。心葉に惹かれ勢い任せに文芸部に入部した菜乃だが、彼女の行動は空回り。心葉の心の中にすでに宿っているひとりの“文学少女”に叶うべくもなく……。しかし、菜乃がとある事件に巻き込まれ、進退窮まったとき、心葉は彼女を助けるために行動を開始する。

[tegaki]新“文学少女”誕生!?[/tegaki]

いやぁ、あの見事な完結で終幕した物語の外伝ということで、期待不安入り交じった本作でしたが、そんな不安なんてあっさり吹っ飛ばしてくれるだけの内容。遠子先輩は物語の舞台から降りてしまっても、この作品はやっぱり“文学少女”の物語なんだと強く強く実感させられる内容でしたね。

遠子先輩は卒業、心葉は彼女の跡を継いで文芸部の部長に就任。部員も彼ひとりという状況のその部に、新入生の菜乃が入部したところから始まる物語。心葉に一目惚れしてしまった菜乃のアタックに動じもせず淡々と自分の気持ちを形にするために、約束を守り続けるために小説を書き続ける心葉の姿は、かつてのシリーズで見せられた頼りなさの雰囲気が随分と薄まっているような。というか、下級生に対してやけに強気じゃね? 菜乃に対する Sっ気混じりの行動は一体……。まぁ、これまでの彼の周囲にいたひとたちって、誰も彼もイケイケで押しまくりなひとたちばっかりだったからなあ、そんな反動が出ているのかも。

そんな和気藹々(?)な部活風景から一転、菜乃が巻き込まれた事件は、まさにこのシリーズの流れを色濃く受け継ぐ顛末。切ないやら美しいやらやるせないやらで泣ける展開でもう。どこまでも純粋にひとを愛してしまったがゆえに、その気持ちを全うすることができなくなってしまった結果としての登場人物たちの選択とその結果。彼の言葉と思いの形の現れと、その真相を心葉が想像してみせる解明のシーンは、遠子先輩の語り口とはまた違った想いに満ちていますね。こんな風に、彼女の面影と想いがしっかりと後輩に受け継がれているんだなあ。その気持ちを受け取った心葉が、それを果たして菜乃に伝えることができるのやら。事件決着後の心葉が菜乃に告げた言葉は、やっぱり、そういう意味なんでしょうかね?

hReview by ゆーいち , 2009/05/10

“文学少女”見習いの、初戀。

“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
竹岡 美穂
エンターブレイン 2009-04-30
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