剣の女王と烙印の仔〈5〉

2010年5月23日

stars おまえはここにいるじゃないか。いつもわたしのそばにいたじゃないか。勝手に苦しんだり勝手に死にかけたり勝手にわたしを助けたりっ、したじゃないかっ! お、おまえがほんとはクリスじゃないとか、そんなのわたしにはどうだっていい。おまえがっ、いてくれればいい。

総主教が殺された戦勝祝典より十日後。クリスはミネルヴァとお互いに傷ついた身体を看病しながら、自分の烙印の力について改めて考えていた。クリスは今まで戦う理由を誰かに預けてきたが、“ミネルヴァを護るために”と自らの意志を自覚し始める。そんな時、フランチェスカは次の総主教を決める密議へ参加するため、銀卵騎士団をパオラたちに任せ、ジルベルトだけを伴ってプリンキノポリへ戻る。そして現れた次なる敵、王配候ルキウスの攻撃が連合軍を猛追する! 徐々に明かされていく刻印の謎、テュケーの恩寵――世界を揺るがす「神の力」が顕現する緊迫の第5弾登場!

銀卵騎士団対聖王国という構図に一石を投じるような外部勢力がいきなり参戦。おいおい、国内の内輪もめ――それでもかなり大規模な争乱――で済みそうになくなってきてますね。そして、その国・アンゴーラの頂点に立つ女帝もまた、テュケーの力を宿すミネルヴァとシルヴィアを狙っているという、構図が複雑になってきたなあ。

ともあれ、あくまで今巻は前哨戦、これからまた奪い奪われ、血塗られる戦いがめくるめく展開していくのですね。それに向けた地均しとして、聖王国内の勢力図も塗り変わりジュリオとミネルヴァの立ち位置がある程度固まり、一方逆に、銀卵騎士団側の組織力はジルベルトへの猜疑や、ニコロの離脱、そして〈聖女〉フランチェスカの不在によって大きく軋みをあげているように思えます。フランチェスカの代行となっているパオラが、めまぐるしく変化する状況について行けずに精神的に崩れかけているのが、その象徴ではないでしょうか。フランチェスカが言った、銀卵騎士団の核、それが彼女の作戦から出た欺瞞の言葉でなく、真実であるのなら、今の状況はこれまでになく危機的なものに思えますね。

そして、そんなあらゆる勢力の思惑の中心にありそうなふたりの姉妹とふたりの騎士。互いに互いを必要とし、互いを守ろうとするミネルヴァとクリス、そしてシルヴィアとジュリオの関係もまた対照的になってきています。日増しに強まる獣の力を抑えているかと思ったら、逆に飲み込まれかけているクリス。原初の獣と、それを求める終末の女神。始まりと終わりを司る神々の力が世界に満ちようとしている状況の中で、力を増しつつある刻印の持ち主たちとの戦いは、さらに激しさを増していきそうな予感がします。今回、クリスたちを生死の境まで追い込んだルキウスとの決着は持ち越されましたが、だんだんと尋常ならざる人外の戦いの域に踏み込んで来た気が……。

何よりも、テュケー、その真価を発揮したミネルヴァとシルヴィアの力の反則ぶりはどうしたものか。取り込んだ力を自在に発揮できるようになったクリスと同様、起きえた事実を、誤った未来と規定してやり直させる時間を司る力は、味方には生を、そして敵には絶対的な死を与える何ものも抗し得ない力と映ります。作中で最強キャラ的に描かれているカーラ先生をもって、決して敵わないと言わしめるその力、永遠を与える血とともに、様々な人間の欲望に晒され、狙われ続ける緊張感の中、最も大切ないとしいひとと、どこまで共にあり続けることができるのでしょうね。

本格的に侵攻が開始されたアンゴーラの動向もそうですが、ミネルヴァが感じた不吉な予感もまた、さらなる激動を暗示しているかのよう。奇跡と称される戦果を挙げてきた銀卵騎士団にとって、これまで以上に厳しい戦況に対し、個々の力ではなく、組織としての力が試される展開に緊張が高まります。

不器用ながらに自分たちの気持ちを確かめ合ってるクリスたちには、やっぱり幸せになってほしいなあ。

hReview by ゆーいち , 2010/05/23

剣の女王と烙印の仔 5

剣の女王と烙印の仔 5 (MF文庫 J) (MF文庫 J す 3-5)
杉井 光
メディアファクトリー 2010-05-22