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ありがとう、をあなたへ
ありがとう、をあなたへ 燦々と降り注ぐ暖かな陽の光に抱かれて、私たちはのんびりと、ようやく訪れた季節の匂いを楽しんでいた。 穏やかな風にのせて運ばれる、柔らかさに満たされた春の匂いはただ緩やかに、私たちを包み込むようにゆっくりと流れて行... -
新しい夜明けに
新しい夜明けに ――新しい夜明けに―― ――はぁ…… 白い息が澄み切った冬の空気に溶け霞んで消えた。 「もうちょっとだね」 「ああ」 言葉は少なくてもそれだけで十分な。 そんな雰囲気に包まれて。 「いろいろあったね、今年も」 「ああ」 それだけで。 想い出... -
『奇跡に抱かれたキミたちへ』
現実は時として余りに無慈悲なものだ。 どれだけの願いも、祈りも、ただその流れの中では風化して記憶の中に閉じ込められてしまうから。 夢見るような幸せな時間は、やはり夢でしかなかったと、諦めの中で何度思い知らされた事だろう。 奇跡なんて信じてい... -
『春を見付けて』
ようやく慣れたと思ったこの寒さも、少しずつ和らぎ始めていた。 広がる青空と優しい陽光を放つ温かな太陽。 七年ぶりに迎えたこの街のこの冬は俺の心に悲しい記憶を刻んだだけだった。 けれど、それは終わりの来る季節。 とどまらず移ろい、時は静かに流... -
tenderly snow
日毎に深まる冬を実感させるかのように、木枯らしが吹き抜けて行きます。時間はその歩みを止める事なく、川の水面のようにただ静かに、ゆっくりと、想い出と共に流れて行きます。 この街に生まれ、様々な出逢いと別れを繰り返して来ました。 そんな過ぎ去... -
笑顔を、少しだけ
冷たい風が吹き抜けて、私は少し身を震わせ道を歩く。うっすらと降り積もった白い粉雪に、私は足跡を刻みながらゆっくりと進む。 寒いけれど、それは決して嫌な寒さではなくて。 何故か、この身を切るような痛さにも似た冷気に包まれていることが好きで。 ... -
笑顔のままで
ねぇ、笑えてる? 笑えてるかな? ずっと、待ってたんだよ。 約束、信じてたんだよ。 ずっと、信じてたんだよ。 浩平。 帰って来るのを。 ずっと、待ってたんだよ。 笑顔のままで 一年。 早かったのかな? それとも、短かったのかな? いろいろあったよう... -
…say Happy Birthday to
...say Happy Birthday to ――雪。 季節の巡りは早くて。 残して来た想いはまだあの瞬間に置き去りにされたまま。 ただ、時間だけが過ぎて。 ただ、想い出だけが色あせて。 歩みを止めたままの私は。 どうして、まだ……。 『あ、天野か?』 『……はい』 『俺... -
風邪
味醂田さんより寄稿いただいた、ToHeart SSです。 風邪 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ… 何時も通りに目覚ましが鳴り、何時も通りの時間に目が覚める。 …とは言え、どーも最近まともな時間にベッドに入ってないからなー、まだ眠い。 お陰でまだ頭がボ... -
『たい焼きはKissの味』
「うぐぅ~」 遅れちゃうよっ。 きっと怒ってるよっ。 今日もいい天気。 青い空がどこまでも広がる……、そんな気持ちのいい初冬の午後。 息を切らせて駆けるボク。 弾む息が白く霞んで後ろに流れて行くよ。 流れる人波を器用に縫って、ボクは駆けて行く。 ...