楽園島からの脱出Ⅱ

stars ――扉よ開け。そして彼女にも光を……。

女子だけが持つ機器「ブリッツ」の効力をいち早く理解し、ゲームの主導権を握った沖田。だが、ゲーム攻略のためにペアを軽視する彼の行動は他の女子との軋轢を招き、一転して不利な状況に追い込まれてしまう。
利用する者とされる者、男子と女子の力関係が表面化した中で続行される脱出ゲーム。その流れに反発する女子グループの台頭などゲームはさらなる混迷を見せる一方で、いまだ見えぬ“脱出”の条件……。果たして勝利を掴むのは?
土橋真二郎が贈るノンストップゲーム小説、最新作! 脱出ゲームはいよいよクライマックスへ!!

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″]“ゲーム”の本性が牙を剥く[/tegaki]

まだまだ続くかと思ったら2巻目であっさりと『楽園島からの脱出』は成りましたね。ラストはなんだか別のストーリーにつながるようなことをほのめかしていましたが、彼らのこの先は語られるときが来るんでしょうか? 今までのパターンだと、まだまだ続くと見せかけてあっさり別シリーズが始まったりするから油断ができませんね。でも、こういう試練を乗り越えてきた主人公たちが一堂に会するようなオールスターな物語を作るために、様々なシチュエーションのお話をちりばめているとしたらスゴいよなあ、とか。本シリーズが上下巻という表示でなくナンバリングで刊行されている意味を考えると、もうちょっとだけ続くんじゃよ、と思いたくなりますけれど。

それにしても、今回のゲームもえげつない展開が控えていましたね。前巻では割と穏便に物語が進んでいたかと思ったけれど、やはりあれは序盤も序盤、坂道を転げ落ちる準備運動みたいなものだったと。牢屋とかの使い方もエグイし、そこに男子が続々と隔離されていくシーンとか、女子こえぇ! のひと言です。

毎回、土橋作品を読む度に思うんですけど、この作者は女子を割と感情的な存在として描きますよね。理性的なキャラクターも出てきたりするけれど、大部分は感情優先で動く人物が多いような。そしてグループを組んで一勢力となる。男子側が理路整然と障害に挑むのと対照的な扱いかと。男子側の視点で描かれると女子は理屈の通じない感情で動く生き物みたいな冷めた、きつい言い方をすると見下したような立場なんですが、物語の進行に伴って、個人の感情が逆に女子たちの数の力、感情の熱に圧倒されていくというのもお約束な気がします。本作でも男子側が取り返しの付かない状態になってしまった後の、女子側のグループの組み方としたらねえ……。これ、ひと夏の思い出にしても、とびっきり苦々しい思い出になった人多数なんじゃないですか? その場のノリで美味しい思いをしても、夏休み開けたら針のムシロですよ、嫌だー!

セクシャルな描写も淡々としながらも生々しい空気が描かれ、夏の空気と相まってにおいまでも感じられるような甘くも毒々しい雰囲気。ゲームの罠に見事にはまって、理性のたがを外されて、堕落の園と化したあの空間は、確かに当事者たちにとっては楽園だったんでしょうかね。それが、その後の平安を犠牲にしたものだとしても。

今作の主人公は間違いなく沖田であったんですが、ヒロインが誰かというのが最後の最後まで騙されてしまいましたね。パートナーとして沖田を支えてきた梨央だとばかり思っていたら、表紙の彼女――花穂さんだったとは。花穂さんの身の上も説明不足な部分があるし、保健室の彼女との繋がりとか、バックグラウンドの広がりを感じさせるところが残されているので、そういう意味ではまだまだこの作品の世界は続いていくんでしょうけれど、そうなったらタイトルは別のものになるよなあ、楽園島じゃないし……。

脱出のための鍵とか、最後の逆転の一手のためのトリックだとか、前巻をしっかり読んでいても「これは気付かないよー」と愚痴りたくなる部分もありますね。でも、何より意外だったのが、花穂さんがまったく黒い部分を見せず、潔癖さの象徴の白いワンピースそのもののように、どこまでも純真であったことですね。いやぁ、こういうキャラって猫被って事態を裏から操ってほくそ笑むっていうのが当然だとばかり思っていたので、最初から最後まで「囚われのお姫様」で在り続けた彼女に驚きました。まぁ、裏というか核心に一番近い場所にいたっていうのは合っていましたけどね。そうすると、沖田が彼女を執拗に尋問したというのは、彼の見立ても間違ってなかったってことなんでしょうね。

これまでの作品に比べると、命の危険というものが最終局面になるまで大きくクローズアップされないため、危機感という面ではやや弱かったという印象はあります。けれど、逆に友達だと思っていたお互い同士が、日常から乖離した異質な空間で自分の欲望を優先したときにどんな風に関係が変わっていくのか。まるで社会の縮図を見せつけられるような展開は、相変わらずいい意味でも悪い意味でもむかむかしますね。もし世界が100人の村だったら、土橋作品じゃあ殺し合いが起きてもおかしくないよ!?

さてさて、お次はどんな物語が始まるのか、あるいはまだこの脱出ゲームが続くのか。未登場の天才君とかもいるみたいだし、設定を全部活かすところまでお話広げてほしいかな?

hReview by ゆーいち , 2012/08/20

楽園島からの脱出Ⅱ

楽園島からの脱出II (電撃文庫)
土橋 真二郎 ふゆの春秋
アスキー・メディアワークス 2012-08-10