斉藤アリスは有害です。 ~世界の行方を握る少女~

stars 見えるかアリス。いまお前の目の前にいる奴が、お前に助けてもらった命だよ。

斉藤アリスは有害です。 書影大

斉藤アリス。やや痩せぎすだが愛らしい、一見普通に見える美少女。……しかし彼女こそは人類で唯一人、法によって定められた、周囲に不条理な災いをもたらす慮外の人類――「有害者(有害指定人物)」だった。
だが、それを信じない少年がいた。
山野上秀明。どんなオカルトも信じない彼は、もちろん「有害者」も信じない。たとえ相手が不幸なら失恋から事故まで何でもあり、挙句テレビ局まで倒産させる不運のハリケーンであっても……。
アリスの秘密を暴こうと近づき、彼女のお友達役兼世話係の「アリス係」となった秀明は、やがて周囲から怖れられる彼女の、隠れた一面を知ってゆき――。

[tegaki font="crbouquet.ttf" size="36″ color="Tomato"]有害者とすごす日々[/tegaki]

ただ、そこにいるだけで周囲まで不幸にする少女。日本政府から公式に有害者として専用の法律まで作られ、社会的に隔離されたような生活を送る少女、斉藤アリス。学校に通いながらも、友だちも作れず、周囲から危険物扱いされ近寄るものもいない孤独な少女、それが彼女です。主人公の秀明が、彼女のお友達役兼世話係の「アリス係」になるまでは……。

オカルトを信じない、科学的に彼女の周囲に起きる異変の原因を究明してやろうという気概に燃える秀明は、他の人々とは違い、アリスに近づくことも、触れ合うことも怖がらず、むしろ彼女にとって久しく忘れていた感情を思い出させていきます。それが、秀明が意図してなかったものだとしても、アリスは彼との触れあいを楽しみ、愛おしみ、友人として大切に思っていきます。そして、本当なら誰もが知ることができたかもしれない、アリスの一面は、周囲が抱いている恐ろしい印象とはまったく異なる愛らしいものでした。

いやぁ、可愛い、可愛すぎるぞ、斉藤アリス。緊張感が解れて、気安い人に対して見せる無防備な姿は小動物的愛らしさ。学校にいるときの緊張しまくりで異常な行動を取って、鉄面皮を貼り付けている姿とはまるで別人ですよ。そう、口絵を見比べてみれば良いのです、プロローグ、19ページで見せられる愁いを帯びたような、冷めたような表情の彼女と、その後描かれる表情豊かな彼女の姿を。

そうしてみると、秀明と知り合ってのアリスは他の同年代の少年少女たちのような、当たり前の日常を、ようやく過ごすことができたんですよね。これまで、一人っきりで過ごすしかなかった学校での時間を、秀明たちと人数は少なくても笑いながら送ることができるようになったし、彼女自身を研究対象としてしか見てこなかった大人たちよりも、ずっと近くで彼女に触れ合う友だちができたんだから。

けれど、そんな蜜月も長くは続かず。冒頭、第一章の最後の一文にぞくりとさせられ、それが冗談ではないのだと少しずつ実感が強まる中盤以降。アリスの不幸が、単なる偶然の積み重なりなどではなく、たった一つ、彼女の願望にも似たような深層から溢れてくる気持ちに起因する力だと分かってからは非常にシリアスな雰囲気に変わっていきますね。それまでは、コメディ色強めだったのに、秀明に危機が降りかかってからは世界が一変したかのような展開。アリスと秀明を取り巻いていた大人たちの事情が変わるだけで、かくも二人は無力になりなすすべもなく引き離されてしまうのか。

それでも諦めない主人公は、さすがではありますが、秀明には世界を救うような権力もコネも超能力もありはせず、ただただ自分の足を使ってアリスへと近づくことしかできない。でも、アリスが望んでいたのは、彼女を怖がらず、忌まず、秀明のように近くにいてくれる人、手を差し伸べてくれる人、笑いかけてくれる人、言葉を交わしてくれる人、それだけだったんですよね。ずっと彼女を見守ってきた博士だってそれを理解しなかったわけじゃなかろうに、結局は大人の都合にがんじがらめにされ、抜け出すこともできず、アリスの願いをついに叶えてやることができませんでした。無力なままの子供だったから、できることは多くなく、子供だから望むものは多くなかった。ただ、二人の気持ちがすれ違わず、通じ合う、それだけで、アリスは決して危険な少女にならずに済むのに。

真相が明かされてからの世界のアリスに対する風当たりはひどいものですね。彼女の周りにあった全てのものが彼女を責めさいなむよう。手を下そうとすれば自らに危害が及ぶからって、自分で自分を傷つける道を選ばせるなんて、大人のくせに子供じみたイジメをして恥じない連中は、彼女の怒りで滅んでしまえばいい、なんて過激なことまで思ってしまいますね。けれど、アリスはそれを選ばず、たった一人の孤独を選ぶ。そんなアリスが不幸にまみれたまま終わりを迎えるなんてそれこそ救いがないじゃない。

でも、最後の最後でやってくれましたねー。どんでん返しがお見事です。秀明は見事にアリスも読者も騙してくれました(笑) 自分が思い描いていた結末とは全然違う展開に、呆然とするアリスに対して決め台詞を吐く秀明と彼女の対比がおもしろおかしくほっとして。舞台を揺るがす大騒動の結末としてはあっさりですが、だからこそ暖かい。その後のオチも笑わせてもらいましたしね。

世界が終わる一歩手前で、アリスを現実につなぎ止める役割を担った秀明は、これからいっそう大変そう。近くて遠い友だちという関係が、アリス係というお役目が、別の形に切り替わるのはいつになることやら。一歩間違えばまた世界が危ないだけに、アリスの恋は前途多難ですね。おちおちラブコメもできないような二人ですが、このまま素敵な時間を過ごし、いつか望んだ家族になることができればいいと、そう思います。

hReview by ゆーいち , 2013/02/03

斉藤アリスは有害です。

斉藤アリスは有害です。 ~世界の行方を握る少女~ (電撃文庫)
中維 GAN
アスキー・メディアワークス 2013-01-10