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俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉

stars ……“呪い”よ。あなたが途中でへたれたら、死ぬ呪い。私の願いを果たすまで“解呪”することは叶わない……。可哀相に、このままではあなた、全身から血を噴き出して、のたつち回りながら死んでいくわ。分かったら、早く私の前から消えなさい。今度は自分の妹に、お節介を焼いてくることね。

「じゃあね、兄貴」―別れの言葉を告げ、俺のもとから旅立った桐乃。…別に寂しくなんかないけどな。そして新学期。平穏な高校生活を謳歌する俺のもとに、奇妙な後輩が現れる。「おはようございます、先輩」俺は、黒猫の人間としての仮初めの名を知り、より深い“絆”を築いていくことになる。“妹”と“親友”。ともに大きなものを失った二人は、数多の思想が渦巻く校内で、“魔眼遣い”の少女と対峙する。“稀少能力”を持つ少女に、俺と黒猫は圧倒され、異空間へと誘われ…!!“日常”と“非日常”が交差するとき、物語は始まる―。

まさかの黒猫ルート突入!?

衝撃的な4巻のラストから続いて始まる第5巻。桐乃のいない生活は、京介にとってもそれはそれはさみしいものになるはずが、新入生として入学してきた黒猫やら、成り行きで入ることになった部活で知り合う面々たちの濃さに当てられ、一般人を自称する京介のオタクの暗黒面が首をもたげ……。

京介、桐乃に自分の趣味を告白された人生相談を受けてから、ずいぶんと懐が深くなったものです。だがしかし、何かにつけてその脳内の選択肢が浮かんだり、エロゲーのシナリオを元にリアル人物の攻略を妄想したりするのはすでに重症患者! 措置入院が必要です!! やばい、やばいよ、もはや右を見ても左を見てもまともな人格者はおばあちゃん的な幼なじみしかいないじゃないか……ッ!

まぁ、ともあれ、読者アンケートの願いが通じたのか否かはともかく、『俺の妹』と題するくせにほぼ黒猫ルートな本巻。やばい、今回の黒猫の描かれ方は、かわいさが過去巻に比べて120%じゃあ利かないくらいに大増量でお送りされていますね。先輩後輩の間柄になって接点が増えたことに浮き足立ったのか妙に距離感を縮めるような行動が目に付きますね。京介との他意のなさを装った感のあるスキンシップやら、「桐乃が京介のことを好きなのと同じくらいに好き」発言とか、ねじ曲がりまくっていた彼女がためらいに立ち止まっていた京介の背中を押すためにかけた「呪い」とか、もうさ、明らかな好意が示されてるのに気づけない主人公スキルにやきもきさせられますねえ。お前は今、黒猫に惚れていいんだ! 精一杯の背伸びで届けた思いが果たしてどんな芽を出すのか、それはまだまだ分からないけれど、自分の望みが叶わない限り解けない呪い、それって取りようによっちゃあ一方的な愛の告白じみていますよねえ。そうしてみると、もう黒猫の方から自分の気持ちを伝えようとするにはあの行為自体がハードルを上げすぎて、次はどんな手を打ったらいいものやらと、ひとりベッドでのたうち回って赤面しつつ悶々とする黒猫の姿を妄想するとにやにやが止まりません。最後の最後で見せ場は桐乃に取って行かれた感じはありますが、黒猫分の補充としてはこの上ないエピソードでしたね。

さて、新キャラとしては黒猫のクラスメートになり、さらに部活仲間になる瀬菜嬢が登場し、ある意味では今回の主役は彼女であるといっても過言ではないくらいのインパクトとトラウマ(笑)を植え付けてくれましたが、まさに

せな☆れっどぞーん!

と誰も手を出せないくらいの暴走ぶり。恐るべき逸材が野に潜んでいたものですな。一見良識派のくせに、自分の趣味のこととなると止めどなくその妄想をまき散らす台風のごとき彼女ですが、それもまたひとにはいえない秘密を持ったオタクの生態の一端? 生々しい彼女ですが、今回の望んだのか望まなかったのか分からないような出会いを経て、これからどんな関わり方をしてくるのやら。次巻あたり、兄である赤城から京介が理由も分からず責め立てられたりしたら笑いますが。

で、物語は既定路線なのか方向修正なのか、やはり桐乃へと向かっていくわけですね。これまで結果を出すことで自分を肯定し続けてきた桐乃ですが、今回の壁は一筋縄ではいかなかったよう。誰にも頼れない状況下、あと少しで完全に折れてしまいそうになった「桐乃」自身を助けてくれたのは、彼女の中では頼りにしていなかったはずのバカ兄貴・京介で。その身も蓋もない懇願と告白を目の当たりにしつつ、毒を吐きつつ、それでも桐乃は自分では止められない自分の意地にとどめを刺してくれるひとを求めていたんだろうなあと想像に難くないですね。自分のコレクションを預け、誰とも連絡を取り合わないという厳しい枷を課しつつも、一言二言でも自分の言葉を届けたかったのが誰なのかという、その一点においてもそんな風に思います。

そんな感じで思ったより早かった桐乃の帰還。最後の最後で黒猫との親友らしいやりとりににやにやさせられつつも、またいつもの面々がそろったことで再スタートな物語。変わらないようで変わってきている面々の姿をこれからも楽しんで見守っていけそうです。

hReview by ゆーいち , 2010/01/17

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉
俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈5〉 (電撃文庫)
かんざき ひろ
アスキーメディアワークス 2010-01-10

C3-シーキューブ〈8〉

stars ……なあ、春亮よ。一つだけ、不安というか……気になることが、あるのだが。人間ではない、私のところにも……本当に、サンタは、来るのかな……?

C3-シーキューブ 8

「クリスマス」と「サンタさん」の存在を初めて知ったフィア。もちろんこんなおもしろイベントを見逃すはずもない黒絵と一緒に大はしゃぎで準備していると、商店街のケーキ屋さんから「ケーキ売りのバイトをして欲しい」という依頼が舞い込んできた。ということで色々きわどいミニスカサンタ衣装に身を包み、ケーキ売りに勤しむフィアとこのはの前に現れたのは、褐色肌の足技得意なヘソ出しミニスカサンタさん!? 彼女の真意と目的は……?

聖なる夜のおくりもの

表紙のギリギリなところを攻めすぎてなんだか少しいろいろ見えすぎてしまってる、フィア、かわいいよ、フィア。

と、それはともかく、今回の話は起承転結がすばらしかったなあ。いつも通りに始まる愉快な日常から、これまたいつも通りにやって来る異能の使い手。それとの戦いを通じて、さらに人間らしさを得ていくフィアという、大枠の構成は変わっていないながらも、中身の濃さはこれまで以上に充実。いやいや、大満足。

クリスマスという行事を始めて経験するフィアの、まだ見ぬプレゼントに対する浮かれようが大変かわいらしいのですよ。けれど、そんな彼女の期待を裏切るかのように、やって来るのは彼女が避けることなどできない禍具の使い手の集団、《研究室長国》からの使者だったり、最強を求める《竜島/竜頭師団ドラコニアンズ》の戦士だったり。

前者の《研究室長国》所属のン・イゾイーは再登場するとは思っていなかったキャラだったけれど、今回のエピソードを通じて彼女の内面と目的が深く描かれたような。戦いの後の彼女の処遇を見ると拍明の親心的なものを感じたりしますが、いんちょーさんの毛嫌い具合を考えると、ただそれだけではなくやっぱり裏の目的があるんじゃないかと勘ぐったりしてしまいますね。けれど、彼女が未知なるものを既知なるものとするための動機はどこまでも純粋なもので、それが上手く春亮たちの想いとかみ合った感じで関係自体は非常に良好なものを築けていけそうな予感がしますね。非常識ながらも慎ましやかで、けれどやっぱりその世間知らずさが賑やかな騒動を巻き起こしそうな、そんな新たな仲間の参入となるのでしょうか。禍具だけでなく、人間の心も引きつけてやまない夜知家の居心地の好さは異常、ってことで。

一方、今回も強敵となった《竜島/竜頭師団》の上位者であるココロ・ペンタジェリは精神的にも、肉体的にもフィアたちを苦しめる大変なヤツでしたね。ただただ強さのみを求める体育会系な集団かと思いきや、その強さを得るためには搦め手からの攻撃も辞さない。相手を本気で戦わせるために、そしてその戦いを自分が愉しむためだけに、シリーズかつてないくらいにおぞましい手段でもってフィアの心を根こそぎ刈り取ろうとするその手段は本当に怖気だつ思いですね。『魔女カリ』では全開だった黒い水瀬葉月の真骨頂をひさびさに見た気がします。これまではある意味ぬるま湯で慣らされていたところに突然冷や水を浴びせかけるようなこの黒さ、これからも加速していくとなると、期待せずにはいられませんね!

そして、ようやくその正体が明かされる学園理事長のお言葉。春亮と同じような境遇にありながらも、彼のように上手くやれなかった世界橋ガブリエル。理事長の藁にも思いが今回の戦いの火種となったようなものですが、その願いは共感できないわけではないのが辛いところ。けれど、誤った手段によって誤った望みの叶え方は誰も幸せになれないと、フィアが自分を戒めたように、失われてしまったものを呪われた道具によって取り戻そうなど救いのある結果になるとは、このエピソードを読んでしまうととてもそうは思えませんね。

だからこそ、諦め混じりでも捨てることのできなかった望みが、決して絶たれていないことが最後に示されるエピローグがとてもすてきに思えるのですね。ひとではないフィアがひとのように純粋に願いを込め続けてきた、その想いの報われ。それこそが彼女にとって何よりのプレゼントになることは、その笑顔が語ってます。少しずつ人間らしくなっていくフィアの心にまたひとつ大切にしまわれることになった思い出が、もっともっと増えていったとき、それが彼女の本当の願いが叶うときなのかもしれませんね。

hReview by ゆーいち , 2009/11/19

C3-シーキューブ 8
C3-シーキューブ 8 (電撃文庫 み 7-14)
水瀬葉月
アスキー・メディアワークス 2009-11-10

聖剣の刀鍛冶 #7 Unrivaled

stars セシリーの仲間が、ハンニバルのおっちゃんたちがきっと戦っている。足掻いている。さあどうするのセシリー。あなたは今、何をするの。何をするべきなの。何度でも言うよ。あなたが言う地獄とか絶望とかそういうものと今も戦っている人たちがいる。だったらあなたは何をするの?

聖剣の刀鍛冶 #7 Unrivaled(書影大)

刹那、セシリーの目に飛び込んできた光景は、悪魔の群に蹂躙される独立交易都市ハウスマンだった!! 剣となったアリアを提げ、都市内へと突貫するセシリーを待ち受けるのは――!? 一方、都市の中にいたリサは突然の帝国軍の襲撃に遭い、ゼノビアと二人きりで人外の跋扈する都市内を逃げまどっていた。愉悦の笑みを浮かべて蛮行に耽るシーグフリードの深謀は果たして……?

すべてを救う――その誓いのために!

いやぁ、前巻のあのとんでもない引きからどう逆転してみせるかと思ったら、これはすごい展開でしたね。絶望に倒れようとしていたセシリーは傍観者で、それを立ち直らせたのは彼女の相棒のアリアで、そして、アリアが言うように、あの場所で諦め、死を受け入れようとしていた住人たちなどいなかった、皆が皆、なすべき事をなし戦っていた、まさに総力を結集した攻防にひたすら胸を打たれます。

もともと、主人公であるセシリーは、その身の丈に合っていないような「すべてを救う」なんていう無茶な夢と信念を掲げ、これまで傷つきながら戦ってきたわけですが、その願い、セシリーの思い描いていた形とは違う、むしろそれ以上のより良き形で実現されつつあることに感動を覚えますね。騎士という使命を自らに課し、すべてを守るために戦うことを覚悟していた彼女ですが、この街で暮らすひとびとが、同じように自らを守るため、そして近しい誰かを守るため、立ち上がり立ち向かうことができたというのはまさに理想的な展開だったのではないでしょうか。

それを知ってからのセシリーの活躍もさることながら、もう一人の主人公・ルークも倒れたままではいられない。彼女の声を、活躍を、想いを受け、立ち上がれないなんて格好の悪いところを見せていられない、そんな意地にも似た対抗心がなんとも彼らしいですが、その根っこで、ルークはセシリーを、そしてセシリーはルークのことを何よりも信じ、誰よりもその力を認めているからこその共闘だったんじゃないかなあ。戦いの熱に浮かされたかのような「私の男」「俺の女」発言も、単なる男女間の恋愛感情だけでなく、これまでともに戦ってきたからこそ生まれた戦友的な熱くて泥臭い感情も含まれていそう。

そんな街一丸となった皆の活躍でなんとか陥落を免れた独立交易都市。それでも世界は否応なしに変革していくし、黒幕たるシーグフリードはその目的実現のため着実に駒を進めているよう。彼の身の異質さと、彼の目的の狂気さと、それを打倒するためにはただひたすらに強くあらねばならぬ。その強さを得るために、正しく強くなっていくために、最強を目指すというセシリーたちの純粋な想いはきっとこれから結実していくのでしょう。

ようやく訪れたひとときの安息に、ぎこちなくいちゃつくセシリーとルークの姿がほほえましくて、ああ、皆が守り抜いたのはその平穏なんだなと改めて実感させられる幕引きでした。

hReview by ゆーいち , 2009/11/15

聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)〈7〉
聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)〈7〉 (MF文庫J)

三浦 勇雄

メディアファクトリー 2009-09-25

されど罪人は竜と踊る〈8〉~Nowhere Here~

stars あたしはガユスが好き。愚かで弱くて嘘つきでも、ううん。だからこそあなたが好き。愚かさも弱さも嘘も、あなたの優しさで長所だから。あなたが他の女の人を好きでも、あたしはガユスを愛している。

記憶を失くしたアナピヤの故郷へと向かうガユスたち。最後にたどり着いたのは死の都と化したメトレーヤだった。激化するアナピヤを巡る攻防。彼らを追跡し、アナピヤを狙う咒式士たちに、武装査問官、強大な長命竜・ムブロフスカも加わり、事態は混迷と絶望の色を濃くしてゆく。悲劇は繰り返されるのか、再び訪れるその瞬間を目の前に、ガユスの、アナピヤの選択は……?

それは愛という名の呪い

シリーズ中、最悪のエピソードであるアナピヤ編後編。やっぱりそこに救いは一片たりともありませんでしたとさ。

大賢者・ヨーカーンの言葉は正しくて、この悲劇の物語の舞台に立たされた演者たちは、抗いながらも定められた結末へ向かって、転げ落ちるように突き進んでいくわけで。繰り返される悲劇、それにいつか救いがもたらされるなんて甘っちょろい幻想は、この世界には入り込む隙間などないようですね……。

ということで、スニーカー文庫版でも読者の多くを絶望のどん底にたたき落とした物語、ガガガ文庫版では嫌な意味でパワーアップしておりました。もともと、再読する気がなかなか起きないエピソードではありましたが、これは油断して読んだら再起不能級のトラウマを植え付けられるような危険な作品……っ。帯に書かれた注意書き、甘く見てると痛い目を見ますぜ?

なんというか、優しい物語に夢見たり、愛というものが幸せをもたらしてくれると夢想したり、そんな逃避も許さない嫌な意味での世界のリアルさを突きつけてくるんですよね。壊れた絆は戻らないし、愛が転じた憎しみは時間が忘れさせることなどないと言っているようだし、皆が幸せになるなんて結末はあり得ないと切り捨ててくるし。そんな中でも、生き残ったものはこれからも生きていかなければいけないし、死んだものは誰かの心の中で棘となって刺さり続け、血を流させ続けていくという。

今回、ガユスが失ったもの、命と引き替えにしたもの、それは大切に思っていた誰かの命だったりたくさんの時間を積み重ねてきた結果の愛だったり。築き上げてきた過去という時間の長さとは反対に一瞬にして永遠に失われてしまうもので、かつてはそこで断絶してしまった彼の物語が、ここから果たして、あるいはようやく進み始めることができるのか、ここから先はまったく道の領域へと踏み込むことになるのですね。

変えられなかった結末、けれど、もしかしたらこれから進むことになるかもしれない物語は、以前に用意されていた結末とは変わるのかもしれないという淡い希望。それは、ヨーカーンが告げた言葉通り、愛を捨てることで回避できる悲劇なのかもしれません。けれど、ガユスにとって、それができるかどうかはまだ未知数。愛し合っていて憎しみ合っているガユスとクエロのふたりの物語が果たしてどのような未来の果てにあるのか、今回のエピソードのような悲劇を繰り返さない何かが選択されることを願って止みません。

hReview by ゆーいち , 2009/11/07

されど罪人は竜と踊る 8
されど罪人は竜と踊る 8 (ガガガ文庫)
浅井 ラボ
小学館 2009-10-20
Amazon | bk1

シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~

stars では力を引き受ける覚悟をなさい。強くなることを自分に許しなさい。人は良きにつけ悪しきにつけ、みずから許しただけのものしか手にすることはできないのです。

カイから言い渡された再戦の比は刻一刻と迫り、しかし、大介は回復すらままならない自身に悩みを深くする。ついに、桂翁に助言を請うた大介は師から言い放たれた言葉に絶句する。「今から貴方を殺します」。強くなるということ、戦うということ、そして過去を受け止め乗り越えたいと願うということ、大介が大介であることの本当の意味が試される。

人形の鎮魂歌ついに(ようやく?)完結!

大介の中に眠っていた亡霊との対峙と、彼が越えようともがいていた亡父を知る強敵・カイとの戦いを通じて、大介が他の誰でもない自分自身の強さと、戦う意味を見つけていくお話でしたね。

これまで、徹底的に打ちのめされ、満足に身体を動かすこともできないという、行くも戻るもできないがんじがらめの状態の中、その弱さを吐き出し、けれど、その弱さを弱さと見ない師・桂翁との会話と対峙がなんとも胸を熱くさせられますね。誰よりも強くあり続けるために、誰とも深く関わることのできなかった桂翁の孤独。その結果得た強さをもって、大介に何かを伝えようとするという行為は、桂翁自身が自らに禁じてきた誰かを懐に入れるという行為に繋がっていて。たとえ、現時点で圧倒的な実力差がふたりの間に横たわっていたとしても、相手に命を賭けさせるということは、すなわち自分の同様に命を賭けているのだということに、それだけの価値を大介に認めたということに、どこまでも孤独な老人の、誰とも交わり得なかった他者との心のふれあいが感じられますね。

強くなることを恐れないということ、強くなるということを望むということ、それがどんな意味を持つのかを、師との対峙で得た大介は、ようやく彼自身の戦う理由を見つけられたんでしょうね。力で誰かを傷つけることを恐れ、誰も自分の強さを見ていないことに恐れ、自分を通して皆が見ている偉大な亡父の影に恐れていた大介が、ようやく一人前として認められるその第一歩の踏みしめだったのだと思いますね。

それからのカイとのバトルは、もはや格闘なんていう次元を超越したトンデモバトルの領域に至っていますが、命を取り合う戦いをしつつもどこか楽しげなお互いを見ていると、このバトルマニアどもめと苦笑するしかなくなりますが、戦う理由は違えど、その戦いを通じてお互いを認めていくという無駄に熱い展開は、いっそ清々しいくらいですね。長く引っ張ってきたわりの、決着の形が不完全燃焼気味かなあと思いつつも、この一線の目的は、相手の命を奪うものではなく、もっと別のふたりにしか分からないももだったということで。戦いを通して、カイの過去を知り、彼を通して父の姿を知り、大介が得たものはとても大きなものだったんだろうなあ。

そんな主人公の復活劇の裏で同時に進行していたドリーマーを巡る策謀。オズを狙ったその動きを見て、ようやくオズの不可思議な行動に合点がいったりと、やたらと遠大な伏線だったかなあ。翻ってみると、この人形の鎮魂歌編は、その副題通りの沙織がお話の中心に来るべきな感じがするのに、大介の物語と同時進行していたような構成でしたね。格闘プログラム保持者である大介の物語と、〈青い遺伝子改変者〉である沙織、そしてドリーマーであるオズというそれぞれが異なる異能を持ちながらも、それぞれの物語が複雑に絡み合って、お互いに関わっているという流れ。もはや不可分なほどにお互いに入り込んでいる彼らの物語は、これから再びオズを中心とした物語へと収束していくのかな?

hReview by ゆーいち , 2009/09/27

シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~
シャギードッグIV 人形の鎮魂歌~reborn~ (GA文庫)
七尾あきら
ソフトバンククリエイティブ 2009-09-15
Amazon | bk1

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