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ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈下〉

stars ……わたし、アルが好き。アルが生きているこの世界が好き。他には何にもくれなかったけど、、わたしに優しくしてくれなかったけど、それでもわたしをアルに会わせてくれたこの世界が大好き。

北極上空の大気制御衛星内に転送された錬たちは、アルフレッド・ウィッテンの遺した日記を発見する。そこに記されていたのは、決して語られることのなかった魔法士誕生にまつわる秘密と、ウィッテン自身の苦悩だった。最初の魔法士・アリスとの出会いと、そこから発見された情報制御理論、そして大気制御衛星の暴走、世界を大きく変えてしまった過去に隠された真実が、ついに明かされる。

孔明が集まりすぎると、そもそも争いは起こらない。これ重要。なぜ過去の大戦が回避できなかったかという答えの一つなのかも。

ということで、アリスとウィッテンの出会いから始まった過去のエピソード。魔法士誕生の秘密とか、大気制御衛星暴走の真相とか、そもそもアレが何だったのかという疑問に解がもたらされたわけですね。もっとも、このエピソードでさらに付け加えられた疑問――世界の解とは何なのかとか、地球を覆う雲を取り除くための真昼が苦悩するほどの手段とか――のせいで、さらに焦らされまくってますが。

ああ、それにしてもこの登場人物たちの生き様には相変わらず切なくさせられるなあ。ウィッテンのきれいすぎる理想と、それを許さない世界。アリスにとっても決して優しくない世界を、それでも何とか彼女のために変えていこうと決意した彼を容赦なく打ちのめす「人間である」ことゆえの恐怖。健三のように理性と理論に徹しきることもできず、エリザのように他人に対して一切の無関心を貫くこともできず、ただただアリスの幸せを願ってしまったという彼の優しさが招いたのがどうしようもない世界の変革と大切な彼女との別れだというのが痛い痛い。

アリスのいなくなった世界、けれどそれはアリスから託された世界。そんな矛盾をはらんだ世界の中で残りの生をまっとうしたウィッテンの願いとあるいは贖罪が綴られた日記を、彼の子たちである錬やサクラたちが受け取る、そんな流れは当のウィッテン自身すら予想してなかっただろうけれど、だからこその運命的な流れにも思います。

人間と魔法士の境界を曖昧にする、あるいはそれは世界に生きる魔法士でない人間の立場を危うくしかねない選択肢を与えられた登場人物たち。理想に生き魔法士たちの理想郷を作り上げるという賢人会議の目的も軌道修正を余儀なくされそう。その理想と相容れない錬たちの立場も変化しそう。今回語られた過去の物語を通じて、現在、異なる立場で戦わざるを得なかった彼らの間にも一本の線が結ばれたようです。

そして、またしても世界の真実へ最も近い場所へ立つことになった真昼の手に渡された鍵が、これからの未来を作るためのどんな扉の鍵なのか、激しく気になりますね。

hReview by ゆーいち , 2009/06/21

ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈下〉
ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈下〉 (電撃文庫)
三枝 零一
アスキーメディアワークス 2009-06-10
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ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈中〉

stars けっこう大事なことだと思うんだけど……。だから……魔法士って人間だと思う? それとも、人間じゃない?

大気制御衛星へと空間転送された、錬・フィア・サクラ・イル・ディーは、そこで魔法士誕生の秘密へと肉薄する。一方、地上に残されたファンメイ・エド・セラは、地下施設を守る老人たちに捕らえられてしまう。魔法士を憎む彼らに、ファンメイたちの言葉は届かず、そして、その地下施設はロンドン・シンガポールの両シティの侵攻を受けようとしていた。老人たちに施設防衛を依頼された祐一たちに、シンガポール軍内で交渉に当たっていた賢人会議参謀の真昼が授けた策とは……?

アリスかわいいよアリス!

ついに語られ始めた、魔法士誕生秘話。名前ばかりが先行し、ミステリアスな存在に思えた彼女・アリスが実は……なキャラだったという。くそう、かわいいじゃねーか。水着だしな!

上巻と違って派手なドンパチは控えめながら、各陣営が動き始める中巻。遥か上空へ転移させられた錬たち帰還の要となる地下施設は、魔法士を憎む老人たちの手にあり、そしてそこが彼らの生命線であるがゆえに協力を得ることが困難。しかし、そこにはシティ軍が人質となってしまったファンメイたち奪還のために戦力を送り込んできて。

独立で行動するヘイズや、施設防衛を依頼されている祐一らは、その両陣営とは距離を置いて行動しつつも、またしても真昼の策に乗せられたのか新勢力を名乗るまでに至ってしまって。けれど、この勢力は、賢人会議とはまた違った思想で動けそうなメンバーなだけに、その場限りのブラフに留まらず、それこそ錬たちも巻き込んで、シティ・賢人会議に次ぐ第3勢力になってくれると面白いんですが。

それは、錬がサクラやイルに問いかけた、魔法士は人間か否か? という問いに対する回答の一つであるとも思えます。魔法士を使い捨てるシティ側、魔法士が幸せを掴めるなら人間がどうなろうと知ったことがないというサクラ、そのどちらにも明確な立場を取ることができない錬、迷い続けた彼の中にも、漠然としてではありますが何らかの答えが生まれつつあるのかもしれませんね。

逆に、老人たちに捕らわれ、心を抉られたセラは、なんだか心の安定を失いそうな雰囲気じゃないですか。まさかのヤンデレフラグとは思いませんが、彼女にとっては家族以外の他者は切り捨てるもやむなし的な気持ちや態度が見え隠れして、下巻の展開に少しばかりの不安が……。

そして、ファンメイはまたしてもひどいことに。毎度毎度、彼女はひどい目に遭って可哀想に過ぎるのですが、そんな位置づけなのですか? ともあれ、彼女こそ幸せになってほしいと願わずにはいられないのですよ。

hReview by ゆーいち , 2009/02/07

ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈中〉
ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈中〉 (電撃文庫)
三枝 零一
アスキーメディアワークス 2009-02
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ウィザーズ・ブレイン〈7〉天の回廊〈上〉

stars 簡単な事だ。私は嫌いなのだよ。君達、魔法士という連中が。マザーシステムなどという厄介な物がなければ、この世から滅びて欲しいと思っている。

賢人会議の意志に賛同したシティ・シンガポール。全権大使として派遣されたフェイ・ウィリアムズ・ウォンは、賢人会議との交渉の他に、もう一つの密命を帯びていた。そして、シティ・ロンドンの身元預かりとなったファンメイは、エドとともに、シティ・シンガポール牽制のための出撃命令が下っていた。一方、独自に世界の秘密を探り続けるヘイズ、賢人会議を追い続ける錬とフィア、そしてシティ・モスクワに身を置く月夜とイルも、会談の地・北極へと集結していく。

次はいつに出るんだあああああ!

ということで、一気に読んだエピソード6までとは違って、ついに待つことになりましたが、相変わらず面白いシリーズ。続きが非常に気になります。

今回もほぼオールキャストで世界を振り回すかのような大事件が勃発。物語はいよいよ、こんな世界を結果的に生み出す事になった情報制御理論とその果ての魔法士という存在の誕生の秘密を語る段階に来たようです。

一方で、賢人会議の幼い理想をまっすぐにうたいあげるサクラ。彼女の愚直さは政治・外交という舞台では全く通用せず、それこそ真昼という参謀の存在がなかったらあっというまに叩きつぶされるくらいの未熟さを隠せません。そして、売りとしている戦力も、最強であるはずのディーが、騎士の天敵・龍使いの完成形へと至りつつあるファンメイに完封されたりと、なかなか理想実現への道は険しいですね。

にしても、ファンメイ、ようやく笑顔が戻って、前向きになったかと思ったらスゴい戦果ですね。魔法士同士の戦いは、単純なスペックの競い合いではなく相性が非常に重要ということを再認識させられる結果かと。全開の対錬戦に続いて辛酸を舐めさせられたディーは、設定上は最強のはずなんですけどねー、今回のセラとの連携のように、ただぶつかるだけでない臨機応変さを身に着ければもう一段の成長があるんでしょうけれど。

我が道を行くヘイズたちは伸び伸びしてる感じが。クレアと行動を共にするようになって良い感じじゃないですか? というか、223頁の挿絵とか、もうね、クレアの乙女回路が全開になってるとしか思えない。赤面! 赤面!! いやぁ、彼女も幸せになってほしいですね。

そして、いよいよ〈元型たる悪魔使い〉サクラと錬という異端中の異端の魔法士の謎が語られそうですね。過去に存在したアリスという少女、彼女の見せた能力がすべての元型となり、それを元に三博士が魔法士という存在を生み出したということでしょうか? 始まりたるアリスのコピーである悪魔使い、その能力に課せられた奇妙な制限とかの理由も明らかになるんでしょうか。

また、魔法士という存在により何もかもを失ってしまった人びとがいるという事実、その大きな壁をどう乗り越えるのか、今回はその憎しみを受け止め、そして赦し、あるいは赦さず、しかし共に手を取るという、困難なテーマが描かれそうです。続刊の発売がひたすら待ち遠しいですね。

hReview by ゆーいち , 2008/10/14

ウィザーズ・ブレイン 7上
ウィザーズ・ブレイン 7上 (7) (電撃文庫 さ 5-11)
三枝 零一
アスキー・メディアワークス 2008-10-10

ウィザーズ・ブレイン〈6〉 再会の天地〈下〉

stars ……僕はくだらない人間かも知れないけど、それでもあの人に『ここを守る』って約束したんだ

中央招集会議でアニル明かされたマザー・システムの真相は、シティ・ニューデリーのすべての市民の前につまびらかにされた。しかし、〈賢人会議〉の参謀・真昼は、アニルの語った事実の裏に隠されている、もう一つの真実を明かす。それは、シティ・ニューデリーだけでなく、地球上に生きるすべてのひとびとにとっての運命ともいえるもので。そして、マザー・コア交換を巡り、シティ内部は内戦状態に陥っていく。

燃える! 燃えるぞ!!

アニルとルジュナの論戦に始まり、賢人会議・サクラと真昼の乱入により世界を巻き込み、そして、アニルの願いを叶えるために錬たちが戦う。全編これ見せ場の連続。終始盛り上がりっぱなしのストーリーをどう語れと。四の五の言わずに読めってことで。

魔法士の犠牲の上に成り立つ世界。その是非を巡りどちらが正しいのかではなく、これからの未来をより幸いなものにするためにこそ言葉をぶつけ合うアニルとルジュナ。そして、人間のために犠牲となることを強いられてきた魔法士たちのための世界を築くため、世界の真実をすべてのひとびとに明かす賢人会議。参謀・真昼の真意は、未だ隠されたままのような印象を受けますが、この会議を通して語られたそれぞれの主張は、誰が正しいかとかではなく、これからこの世界で生きていくために考えなければならない、その事実を世界に対して見せたことこそが、彼の言う「世界を変える」に繋がっていくんですかね。タイムリミットは迫り、決して長いとはいえない時間の中で、これから人類が何を見出していくのか、それが語られたりはするんでしょうかね?

対決する各キャラの見せ場も盛り上がりましたね。ディーはやっぱりでたらめだし、どうすんのこいつと思っていたらヘイズの奇襲で撃退、ってか彼に対して有効な手って、もうこういうI-ブレインを強制停止させるくらいしかないんじゃね? 的な最強っぷり。吹っ切れた彼は強いですね。

セラVSクレア。ディーを通して繋がっていたふたりが、直接に向き合う戦い。しがらみから解き放たれ、初めて自分として空を舞ったクレアと、これまでの戦いを通して、強さを身につけていったセラ。クレアの言葉通り、次に出会うときが敵同士でないことを祈るばかりですね。

そして、錬VSサクラ。きょうだいのようなふたりでありあがら、依って立つ信念が対極にあるふたり。これと決めた道を、迷わず歩むことを決めたサクラと、選択を為さないまま迷い立ち止まったままでいる錬。すでに、相互理解の道は閉ざされてしまったようなふたりだけれど、これからいくつも刃を交えつつ、それでも互いが幸せを見つけられる道を探って行けたなら……。だからこそ、真昼はサクラの側にいるのかもしれませんね。錬と過ごした9年という時間を、サクラにも与えてあげたいのかも、とか、彼の人間性からするとちょっと違うかなあとか思ったりもしますが。

何より、アニルの生き様はこれまでのどの人物よりも輝いていたなあ。彼の綺麗すぎた望みは、この世界には眩しすぎるかもしれないけれど、彼の残したふたつの言葉は、これからも世界で生きるひとたちの標となって残っていくのでしょうね。

ともあれ、賢人会議が世界に示した残された時間の少なさ、そして、未だ明かされないままの世界の秘密、そして謎の人物『アリス』と、これからの展開にも目が離せませんね。
ようやく、既刊全部読み終えたけど、次のエピソードは、今年中に出るのかなあ……?

hReview by ゆーいち , 2008/05/05

ウィザーズ・ブレイン〈6〉 再会の天地〈中〉

stars 目の前にいるのが敵か味方かは誰にも分からない。ここは、もう戦場ですよ

シティ・ニューデリーは中央招集会議の開催を決定した。その中で、アニルはすべてを明らかにする覚悟で臨む。彼を警護するのは錬。アニルの決意を知らされない錬は、彼の行動に疑問を覚えつつ、中央招集会議の日は訪れる。

舞台は政治の場で決着を見るのか? と思いきや、両陣営の策士の一手ごとに状況はめまぐるしく変化していく中巻です。〈賢人会議〉の代表として矢面に立つサクラとは別に、その背後で舵取りをする真昼、そして、彼の存在を見抜き彼に対して仕掛けるアニル。ふたりの読み合いは、表だって戦う錬やサクラ、ディーたちのバトルとはまた違った緊張感がありますね。

物語的には大きく進展はしていないような感じがしつつも、月夜やイル、ヘイズが辿り着いてしまった、世界に隠された事実だったり、あるいは、フィア、セラ、クレアの出会いだったり、オールキャストがそれぞれの場所で繰り広げられる会話だったりは、やはり良いものです。惜しむらくは、彼らが対立しているという事実で、決して相容れない信念があるだけに戦いは避けられないであろうことも分かりますが、同じ目的に向かって戦う姿も見てみたいなあ。

イルとサクラの共闘や、錬とディーの戦いとか、バトル方面でも見所はありますね。前者は、二度と見られないかも知れない貴重なショットだし、後者は最強の騎士の称号に最も近いであろうディーに対して、応用力で上回って見せた錬の成長が伺えます。スペック的には適いそうもないのを、発想と工夫で御してみせた錬の作戦勝ちといったところですかね。

そして、いよいよ始まる最後の一日。歴史が大きく動こうとする一日が、どんな展開を見せるのか、期待です。

hReview by ゆーいち , 2008/05/04

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