雪蟷螂

このページは約 3分13秒で読めます。

stars ……雪蟷螂の愛は深すぎる。それが希望でもあり、また等しく絶望のようにも見える。彼女の恋情は……なにかを起こすのかもしれないね。

冬の山脈に暮らすフェルビエ族とミルデ族の間で長きに渡り続いた氷血戦争はこの儀をもって終結を向かえるはずだった。それは、ふたつの部族の族長同士の政略結婚。しかし、フェルビエの族長・アルテシアがミルデ族長・オウガの元を訪れたとき、この約束の儀は何ものかの思惑により阻まれることになる。想い人を喰らう“雪蟷螂”とまで呼ばれるフェルビエの女たち。様々な想いが交錯し、舞う厳冬の山脈の春はまだ遠い。

年に1冊というスローペースながら、相も変わらず魅了されてしまう物語を紡ぐ紅玉いづきの3つめのお話。曰く「最後の人喰いの物語」だとか。

なるほど、最後を飾るにふさわしいお話と感じました。深く深く、激しく激しい、女たちの愛の物語。愛した男を喰らうとまで言われる“雪蟷螂”の女たち。この物語は、そんな彼女たちの様々な愛の物語でありました。

なんというか、こんな極限ともいえるような、吹雪に閉ざされた山脈で語られるには、熱くて身も心も焼かれそうな恋ですよね。それは、部族の未来のために長きにわたり敵対してきたミルデとの婚礼を決意するアルテシアもそうだし、彼女の影武者としてひたすらにアルテシアの幸福を願い続けたルイもそう。そして、彼女たちの物語の遥か以前に始まり、そして続いてきたもうひとりの彼女の恋もそうでした。

そんなフェルビエの女たちの恋が愛に変わるまでの想いの描かれとかは、そんじゃそこらの恋物語とは一線を画してますよね。元々血なまぐさい蛮族たちの物語であるわけで、そこに穏やかさとか、暖かさとかを感じる前に、ただただその激情に圧倒されてしまいます。特に、過去の出来事として語られた彼女の恋が迎えた凄絶なまでの結末は、その想いの大きさと表現の仕方が圧巻でありました。

そして、アルテシアしか見ていなかったルイが気付いたこと、彼女が抱いた想いにもどうしようもない切なさを感じてしまいます。オウガの誠実な想いに気付いた彼女が祈るように告げた言葉も、自らの命も省みずにアルテシアの前に立ったことも、彼女の、彼女なりの、フェルビエらしい恋の形だったのかなと思います。

逆にそんな際だつ二つの恋と愛の姿を見せられただけに、物語の中心にいたはずのアルテシアの恋の行方が霞んでしまったかのように思えるのが残念といえば残念。けれど、アルテシアも恋を恋と知らぬまま、今より遥か昔に出会った少年に心奪われ、その出会いにより生かされてきた。そして、それはその相手も同じだった。誰にも知られることはない彼女の恋ですが、この物語の始まりと終わりを彩るには、ふさわしいふたりだったのかもしれません。

ああ、もう。優しいだけじゃない、激しく狂おしい愛の形を見せていただきました。

hReview by ゆーいち , 2009/02/28

雪蟷螂

雪蟷螂 (電撃文庫)
紅玉 いづき
アスキーメディアワークス 2009-02
Amazon | bk1
スポンサーリンク

One Trackback to 雪蟷螂

サイとはいかが?
サイとはいかが? 2009年9月7日 at 17:51:09

『雪蟷螂』を読んで…

紅玉さんといえば第13回電撃大賞の人ですね。イラスト皆無の童話調で、ラノベとしては変わり者の作品「ミミズクと夜の王」でデビューした作家として有名です。多くのラノベ読書家たちが「イラストないのかよっ!?」と驚嘆していましたね。
そんな紅玉さんが贈る人食い物語の第三弾。

0 Responses to 雪蟷螂